題詠100首選歌集(その8)

        選歌集・その8

017:画面(37〜61)
(諏訪淑美)3Dの画面恐ろしコロラドの濁流我を飲み込む気配
佐藤紀子)五歳児の見せてくれたる祖母の絵は髪が画面をはみだしてをり
019:靴(34〜58)
(原田 町)幅広の靴に慣れたるわが足よ今日はパンプス履かねばならぬ
(湯山昌樹)履く足は二本だろうと茶化されてそれでも時々靴を買う姪
020:亜(36〜60)
佐藤紀子)青島の亜熱帯樹の群生が驟雨に打たれ荒き音たつ
043:旧(1〜25)
(ひじり純子)旧姓で呼ばれてすぐに振り返る三十年も経っているのに
(志稲祐子)御茶ノ水 ここから私の青春の旧跡めぐりを始めましょうか
(定)旧道の錆びた橋桁きしませて車輪は空へひかりを返す
(遥)亡き母と弟嫁と旧姓が何故か同じでちょっと悔しい
(はぼき)旧型の丸いポストに誘われて旅のたよりを絵葉書で出す
044:らくだ(1〜25)
(春原千花)胸なんてただの脂肪よついてればいいのらくだの瘤と同じよ
(天野うずめ)約束を君と重ねた夜だったらくだの遊具があった公園
045:売(1〜25)
(美穂)TPP交渉進んでいるらしい食肉売り場に洩れるささやき
(映子)婆と子と私のいつも三人で特売玉子買ったあの頃
(雪)汽車に乗るとくべつな日売店でとくべつにガムを買ってもらった
046:貨(1〜25)
(山階基)踏み切りの前で大切そうなこと言うから貨車を数えそこねる
(ひじり純子)さまざまな色のコンテナ繋げられ貨物列車の長い道のり
(美穂)ジオラマの貨物列車は停車中 春を届ける準備完了
(尾崎弘子)銀河鉄道のやうに星屑散らしつつ深夜貨物列車が発つ駅
(はぼき)たわむれに輸入雑貨を見て回るまだ見ぬ国の息吹もとめて
047:四国(1〜25)
(春原千花)初めての四国はどこか懐かしく探してしまう「かぜのてのひら」
(千原こはぎ)四国まで行こうと言ったあの春を抱いてひとりで渡る島々
(紫苑)めぐりあふ生者と死者のあひにあり四国とふ地は字をたがへたり
048:負(1〜25)
(春原千花)右腕の負荷が嬉しく自由には歩けぬ街が今日は輝く
(ますだたつろう)新年の抱負を書いた手帳ならどこかになくしてしまったばかり
(しま・しましま)草負けの両手を水に浸しゐる やさしさの意味はかりあぐねて
(はぼき)コンビニに並ぶゴミ箱順に見て負の感情の捨て場を探す
049:尼(1〜25)
(千原こはぎ)僕たちが離れ離れになるための尼崎駅乗り換え通路
(美穂)早春の霙まじりの雨のなか尼僧の足袋の白きたしなみ
(しま・しましま)ねこと祖母、こけしの横の陀羅尼助、いつも葭戸のかげがさしてた
(紫苑)クッキーのくちどけやさし鎌倉にしづもりかへる尼寺にゐて