題詠100首選歌集(その9)

         選歌集・その9

008・ジャム(62〜86)
(円)戦争をテレビが告げる傍らでジャムは真っ赤に煮詰まってゆく
(蓮野 唯)ジャムを塗る時間を惜しく思うほど眺め続けた息子も8歳
(新野みどり)くさはらで摘んだいちごのジャムの瓶抱きしめて行け幼き少女
佐藤紀子)慰めの言葉を見つけられぬままジャム入り紅茶友に進める
011:怪(59〜84)
(湯山昌樹) 世の中は妖怪ウォッチでいっぱいで真の物の怪出るすきもなし
(蓮野 唯)妖怪も友達になる闇の無い世界の中で息子は育つ
(くゆり)物の怪の気配懐かし古の鏡花の気配たまゆらに見ゆ
013:刊(49〜73)
佐藤紀子)週刊誌が今週もまた書きたてる ロイヤルベビーの名前の候補
(影山光月)朝刊を家に入れればもうすでに今日の一日(ひとひ)が始まっている
(くゆり)新刊をぶら下げて来る足取りの軽きや君はこの世謳歌
(只野ハル)刊行のあてはなけれど書き続く仕事の後の夜は更けゆく
014:込(50〜75)
(短歌はじめます、さざなみ)飲み会は桜の下でケーキ付あの子も込でお願いします
佐藤紀子)込み入つた話があると呼びだしてあなたは煙草ばかりすってる
015:衛(50〜75)
(ほし)台風のあとの衛星放送のうつらなくなりて夜しづかなり
050:答(1〜25)
(美穂)正解はCMの後いつだって君より先に答えをさがす
(映子)生きていく答えはヒトツだけじゃない指させばもう正解の中
(雪)楽しみにしていたものは答案の裏に書かれた自由な世界
(はぼき)対応が大人だったと言えるのか自問自答をまたくり返す
佐藤紀子)相談のかたちで我に話す友 答はすでに出したる後に
051:緯(1〜25)
(志稲祐子) 祈りさえ届かなかった遠かった北緯36度のシリア
(映子)俺までをどう来たかってそんなことお互い経緯は知らずにおこう
(紫苑)民草の無力よ引き入れられし線は緯度のごとくに辺野古をわかつ
佐藤紀子)経緯より結論を先ず言はしめて気みぢかなりき我の上司は
(中村成志)陽とともに高まる鼓動 歳月の運ぶ経緯を 見たくはないか
052:サイト(1〜25)
(天野うずめ)窓辺から雪の冷たさ感じつつエロサイト見た履歴を消そう
(遥)顔知らぬ人との出会い新鮮でサイト訪ねた日々が懐かし
053:腐(1〜25)
(千原こはぎ) もう既に腐りつつある事実には気づかないまま甘い足枷
(美穂)路地裏に染み込むような豆腐屋のラッパの音色を思う夕焼け
佐藤紀子)たつぷりと大根おろしを添へてだす得意料理の揚げ出し豆腐
(雪)母に身をまかせ形を変えていく木綿豆腐をじっと見ていた
060:孔雀(1〜28)
(天野うずめ)飛び出してくるかのように色褪せぬ円山応挙の描いた孔雀
(美穂)いつ開くつもりか羽をたたみ込む孔雀の前のベンチは満席
(みちくさ)窓際に置いた鉢からこぼれ咲く孔雀サボテン灯りのように