題詠100首選歌集(その11)

<ご存じない方のために、時折書いている注釈>

 五十嵐きよみさんという歌人の方が主催しておられるネット短歌の催し(年初に100の題が示され、その順を追ってトラックバックで投稿して行くシステム)に私も参加して11年目になる。私の投稿を先行させつつ、例年勝手な「選歌集」をまとめ、終了後に「百人一首」を作っており、今年もその積りでまず選歌を手掛けている。至って勝手気まま、かつ刹那的な判断による私的な選歌であり、ご不満の方も多いかと思うが、何の権威もない遊びごころの産物ということで、お許し頂きたい。

 主催者のブログに25首以上貯まった題から選歌して、原則としてそれが10題貯まったら「選歌集」としてまとめることにしている。なお、題の次の数字は、主催者のブログに表示されたトラックバックの件数を利用しているが、誤投稿や二重投稿もあるので、実作品の数とは必ずしも一致していない。

          
         選歌集・その11

005:中心(70〜94)
(五百助) 雨の中心をなくしたような肌で歩む少女のゆく先も雨
佐藤紀子)子供らを中心にして暮らしゐし日々を想へり 幸せなりき
026:湿(35〜59)
(はぼき)湿っぽい話は無しにしましょうと顔をゆがめる喪主席の父
(文乃)給食の白衣にアイロン強く圧しぱりっと湿り気追い出してゆく
(五十嵐きよみ)行間に雨季の湿りを嗅ぎながら読みゆく『マレー蘭印紀行』
(有櫛由之)碕といふ土地に生まれて汝が髪の先はかすかに湿りてゐたり
(湯山昌樹)わずかなる湿りを帯びて鴨川の風京の町へ広がってゆく
029: 尺(30〜54)
(雪)三尺の大輪の華見上げつつ大口開けてる横顔見てる
(有櫛由之)尺蠖は伸びつつ吾は蹲みつつ五月 愁ひをうらがへしをり
030:物(28〜52)
(文乃)立春を過ぎ三割に下げられて干支の置物まだ売られおり
(諏訪淑美)買い物に行けなくなったら何としょう悩みが一つ増えたこの頃
(キョースケ)万物の霊長である人類は今日ものどかにあくびをしてる
056:リボン(1〜25)
(春原千花)放課後の噂話の君の名に胸のリボンが飛んで行きそう
(美穂)モノクロの晴れ着姿は七五三羽根付きリボンを斜めにのせて
(映子)父さんの機嫌がイイとバッテンボーつぶやいてたなボタンとリボン
(柊かいう)リボンつけはしゃぎ回りし頃過ぎて而立のいまはシュシュでまとめる
(只野ハル)リボンなどらしくないから一人だけ帽子被って不貞腐れてる
(雪)たいせつな想い出だからたいせつにしまっておこうリボンをかけて
057:析(1〜25)
(ひじり純子)「透析もやっています」と看板に書きたる医院の患者少なし
058:士(1〜25)
(美穂)外出が明日の姑(はは)に介護士は手を振る「明日は非番だから」と
(しま・しましま)片方を引けばするりと解け行くリボン結びの紳士協定
059:税(1〜25)
(しま・しましま)税金が少しかえつてきた夜をなんでもないやうな顔で歩く
(遥)送付するだけじゃ得られぬ達成感がいいんだと税務署へ行く
(柊かいう)内税の店にて惑ふこともありほかより安き人参を買ふ
(はこべ)湯島にはお蔦主税の梅かおり男坂女坂に春陽てる 白
佐藤紀子)複雑といふにあらねど年毎に億劫になる税の申告
061:宗(1〜25)
(横雲)孟宗を春の驟雨が濡らしゆき人偲ぶ身を風が吹き抜く
(千原こはぎ)到着を待つ昼下がり宗教の勧誘ばかりがチャイムを鳴らす
(西藤定)宗像の航海の神まつられて江の島の灯のゆるりと廻る
(柊かいう)宗学の講義のためにちょっぴりと箴言の書を斜め読みせり
(原田 町)紛争は宗派の違いの解説も他人事として寺巡りする
062:万年(1〜25)
(志稲祐子)滲むとき空の彼方を想うから万年筆は青色インク