題詠100首選歌集(その13)

          選歌集・その13

012・おろか(54〜78)
(円)おろかものばかりではないさびしさに空を仰げばただしく青だ
(ほし)経文の「あはれといふもおろかなり」胸に響きて仕事に戻る
(コバライチ*キコ)おろかなる戦争なりしと朝ドラのヒロインの言ふ口尖らせて
032:昏(26〜50)
(雪)昏昏と眠る娘の顔見つつ痛む胸元ひたすら冷やす
(中村成志)日輪は垂直に落ち 昏れなずむなどという語を 海が蔑む
(文乃)昏々と眠れる母の病室に言葉少なき父とわたしと
(短歌はじめます、さざなみ)黄昏のまだうすあかりのこるころ海を見ていた遠いあの頃
佐藤紀子)梟の声が何度も聞えくる黄昏時のブナの林に
(RussianBlue)昏々と寝入る猫撫でぼんやりとおひとりさまの終末想う
033:逸(26〜50)
(中村成志)夕光が炎に逸れて 湾岸の煙突群の にじむ焦点
(五十嵐きよみ)ふらふらと話題の逸れる書きぶりがいかにもコミさんらしい味わい
(短歌はじめます、さざなみ)逸品といはれし茶碗見た日にはひとり飲むお茶佳き茶と思ふ
(文乃)渾身のキックがゴールを右に逸れPK戦は終わりを告げる
(湯山昌樹)逸したる栄光の座の重くして子らの練習再び始まる
069:銅(1〜25)
(横雲)銅羅の音の響く御寺に春浅く経読む僧の遠ざかる影
(ひじり純子)湯を沸かした寸銅鍋に円描く少し細めのスパゲッティで
(遥)雨風に打たれ吹かれて銅像は動かれもせず世相見つめる
070:本(1〜25)
(美穂)「来週は本格的な春のよう」着膨れて立つ予報士は言う
071:粉(1〜25)
(中村成志)両の手は肘まで白く 粉を練る少女の朝よ 酵母のにおい
072:諸(1〜25)
(横雲)諸肌を晒し駆けゆく男の背松明揺れて火の粉が注ぐ
(美穂)引越しの諸事万端が調えばかすかな不安は毛布にくるむ
(はこべ)小諸駅きみに手を振り三十年あの日とおなじ白雲をみる
(原田 町)捨てたきもの諸々ありてもそのままに長梅雨の日を家に籠もれり
073:会場(1〜25)
(志稲祐子)開始後に問題文の訂正が しずかに歪む試験会場
(美穂)ボサノヴァのライブ会場おだやかな世代の静かに集まる夕べ
佐藤紀子)会場は母校の傍の「美登利すし」 毎年同じ月の同じ日
074:唾(1〜25)
(ますだたつろう)「眉唾な話ですね」と言ってくる後輩に「え?」と聞き返してる
(のんちゃん)こそこそと話される時九割は眉唾ものの話と思う
佐藤紀子)固唾飲み見つめる子らに笑ひかけマジシャン見事に鳩を出したり
076:舎(1〜25)
(千原こはぎ)失った恋を持ち寄る学舎の乙女らに降れあたたかな雨
(しま・しましま)ストローでさくらんばうを吸ひあげて古い校舎のなくなる話