題詠100首選歌集(その14)

<ご存じない方のために、時折書いている注釈>

 五十嵐きよみさんという歌人の方が主催しておられるネット短歌の催し(年初に100の題が示され、その順を追ってトラックバックで投稿して行くシステム)に私も参加して11年目になる。私の投稿を先行させつつ、例年勝手な「選歌集」をまとめ、終了後に「百人一首」を作っており、今年もその積りでまず選歌を手掛けている。至って勝手気まま、かつ刹那的な判断による私的な選歌であり、ご不満の方も多いかと思うが、何の権威もない遊びごころの産物ということで、お許し頂きたい。

 主催者のブログに25首以上貯まった題から選歌して、原則としてそれが10題貯まったら「選歌集」としてまとめることにしている。なお、題の次の数字は、主催者のブログに表示されたトラックバックの件数を利用しているが、誤投稿や二重投稿もあるので、実作品の数とは必ずしも一致していない。

     
 選歌集・その14

034:前(26〜50)
(雪)曾祖母の着物で作った丹前に残った香りを深く吸い込む
(五十嵐きよみ) 自転車の速度を上げるエビアンと『宙の名前』をリュックに詰めて
(原田 町)備前焼きのカップに注ぐコーヒーを旨しと思う病い癒ゆれば
(辺波悠詠)囚われの空を掴みに雑踏を泳いでいこう、渋谷駅前
035:液(26〜50)
(文乃)機械にもツボがあるらし揉みやれば液晶画面が点くプリンター
036:バス(26〜50)
(五十嵐きよみ)オムニバスで人間模様が描かれる阪急電車ひと駅ごとに
佐藤紀子)バスタブにたつぷり張った湯の中に今日の疲れが溶け出してゆく
(希屋の浦)キミを待つバス停の赤しとしとと道路は黒く濡れそぼつのみ
037:療(26〜50)
(文乃)我の眼に治療のレーザー丹念に撃ち込む女医の瞳美し
(只野ハル)療養所木々が色付く高原の片隅に臥す音のない午後
(コバライチ*キコ)かくもまあ還付されたる金額の大き年あり医療費控除
(キョースケ)託されしノートの端に生きたいと 療養所の友今冬逝きぬ
038:読(26〜50)
(はぼき)読み返す古い日記に赤面しでも棄てられぬ還らざる日々
佐藤紀子)「あとがき」をまずまっさきに読みはじむ 友の歌集が届いた午後に
(湯山昌樹)今週もまた政治家の失言が載る新聞を斜め読みする
039:せっかく(26〜50)
佐藤紀子)「せつかくのお誘ひですが」と辞退して確定申告ともかく済ます
(原田 町)多機能の機種をせっかく選びても使いこなせぬスマホデジカメ
(文乃)せっかくのお土産だからと断れず飲み込むケーキはずしりと甘い
(有櫛由之)陽あたりにせっかく咲いた芍薬を剪る六月の水の昏さよ
075:短(1〜25)
(ひじり純子)昼下がり短編小説読み終えて片頬だけの笑みを浮かべる
(映子)少しづつ日も長くなりこの頃は短夜の来る嬉しき兆し
(紫苑)短篇を読みつぐやうに紡がるることのはを追ひ日を過ぐしをり
077:等(1〜25)
佐藤紀子平等院鳳凰堂の飛天たちmycloud(マイ・クラウド)を一つづづ持つ
078:ソース(1〜25)
(ひじり純子)お好み焼きソースの味が恋しくてお好み焼きのキャベツを刻む
(映子)お祭りのたびに夢見た大人買い今日は梅ジャム・ソースせんべい
佐藤紀子)ニュース・ソース解らぬままに届きたり 友が離婚せしとのうわさ
079:筆(1〜25)
(横雲)紅筆の色を映して紅梅が鏡の奥で染まりゆく朝
佐藤紀子)穂を揃へ小さき土筆が群生す風の涼しい夏のゲレンデ