題詠100首選歌集・その16

       選歌集・その16

084:錦(1〜25)
(映子)官軍の御旗舞うたと言い伝うわが町の名は錦町なり
(しま・しましま)夕焼けが雲を錦に染め上げて 今日のこと全部うそだつたんだ
(はこべ)きみと行く錦帯橋の曲線が昨夜の怒りをやさしく撫でる
(原田 町)錦町ビルの小さきスペースに事務所を持ちて子は独立す
086:珠(1〜25)
(ひじり純子)数珠玉を繋げて作る首飾り空が今より広かった頃
(しま・しましま)珠算塾へ向ふともだち見送つてもう一度おに決め合つてゐる
佐藤紀子)ひさびさにケースより出して拭ひたり母の遺品の真珠の指輪
(文乃)数珠つなぎにちょこちょこ並ぶ一年生少し曲がった整列をする
087:当(1〜25)
(横雲)当尾(とおの)の道花の匂ひのする女(ひと)と巡る石仏九体の御寺
佐藤紀子)当然のごとく黙つて席につく いつもの店のランチの時間
088:炭(1〜25)
(遥)別所には父の山あり晩秋はリヤカー引いて炭焼きに行く
(はこべ) 竹炭の澄んだ音する車内には志賀高原の風誘いおり
(きむろみ)燃えさしの炭で描けばどの山も太郎眠らす冬の尾根なり
089;マーク(1〜25)
(天野うずめ)本田へのマークは厳し 鈍きままの曇り空なりミラノの冬は
(映子)初めてのワンポイントは高三の傘のマークの白いポロシャツ
(はこべ)テレマーク弾んでおりぬ沙羅ちゃんは吹雪の中で笑顔たやさず
090:山(1〜25)
(千原こはぎ)山盛りの愛を惜しまず注がれて行き場を失くす「さよなら」の文字
091:略(1〜25)
(ひじり純子)省略がすぎて心はすれ違うたまにはちゃんと「好き」といいたい
(紫苑)略奪の大地にありてなほつづく人のいのちの重さのちがひ
佐藤紀子)葬式は省略せよと夫が言ふ 一応「はい」と答へおきたり
(短歌はじめます、さざなみ)略すほど多くなけれどこの半生まずよしとして残りを生きる
(原田 町)侵略の一員として亡き父も動員されしか重き八月
092:徴(1〜25)
(天野うずめ)先生の特徴とらえたモノマネで明るくなった午後の教室
(美穂)新聞に知人の投書のあるを見てあの特徴ある筆跡浮かぶ
(紫苑)降り出した雨はわかれの徴(しるし)なれ遠ざかりゆく傘をおくりぬ
(はこべ)自治会の会費徴収その都度によも山話あつめておりぬ
094:腹(1〜25)
(美穂)「もうお腹いっぱい」と言う幼子の「お腹」に手をやり微笑む夕餉
(紫苑)腹のたつこともすくなくなる歳にカップの酒のあぢをおぼえぬ
佐藤紀子)班(はだら)雪まだ消え残る山腹にグレーシャーリリーうつむきて咲く
095:申(1〜25)
(遥)いそいそと確定申告する君を思い描いて書類揃える
佐藤紀子)今日こそは明日(あした)こそはと思いつつ確定申告ぎりぎりになる