題詠100首選歌集(その17)

            選歌集・その17

003:要(86〜110)
(美亜)ありふれた言葉は要らず手を繋ぎ月を見上げる程の距離感
(廣珍堂)京都なる街の要の神泉苑買ひ物帰りの主婦通り過ぐ
043:旧(26〜50)
(文乃)旧式の炊飯器一つ貰い受け一人暮らしの始まりとなる
(有櫛由之)こひこくとふ郷土料理を待ちわびて旧街道の鄙の家に雨
(只野ハル)旧作を見れば思い出蘇るひとつ炬燵で君と居た頃
(廣珍堂)復旧の見通しのない猛吹雪寝台列車は白の底なり
044:らくだ(26〜50)
(五十嵐きよみ)すみずみに読後の余韻が沁みてゆくしばらくだれとも話したくない
佐藤紀子)月の砂漠の夢を見るごと目をつぶる動物園のひとこぶらくだ
045:売(26〜50)
佐藤紀子)売り声は機械に任せ焼き芋屋車を停めて道傍(みちばた)に立つ
(文乃)「ママ、来て!」と売り子二人に誘われてお店屋ごっこの上客になる
046:貨(26〜50)
(文乃)おはじきの硬貨並べて青いのは百円ですと子らは言いたり
(廣珍堂)石炭の匂いがあった村の駅貨物列車が通過していく
096:賢(1〜25)
(千原こはぎ)いつだって賢いきみの言葉から逃げ出して住むまだ冬の街
(みちくさ)黒板に「畑ニイマス」と書き置いて消えた賢治を追いかける風
佐藤紀子竹林の七賢人のごとく酌み老夫とその友政治を嘆く
097:騙(1〜25)
(横雲)騙し絵の騙しの技に身を任せ夢の世界に遊ぶ春の夜
(天野うずめ)騙されて気づくぬくもり君をまた好きになりたい暖かき午後
佐藤紀子)階段はゆつくり降りる右膝の関節痛を騙しなだめて
(原田 町)久しぶり息子の電話うれしくてオレオレ詐欺に騙されかける
098:独(1〜25)
(美穂)どちらかがいずれは独りと思うとき同年代の役者の訃報
(遥)独り言 画面に向かい呟けばひとりぼっちがとんがってくる
099:聴(1〜25)
(横雲)秋聴くと名づけた庵に行きあたる紅葉の道の園を訪ねて
(ひじり純子)夕暮れの視聴覚室ポツポツと小さな壁の穴も暮れ行く
(しま・しましま)ふたり分の食器をお湯に沈ませて余った夜の雨音を聴く
(RussianBlue)老いるとは豊かになること光ること深い言葉を聴かせてほしい
100:願(1〜25)
(天野うずめ)叶えたい願いばかりが増えてきて君に会えない理由をつくる
(しま・しましま)流星に願ふことばの浮かばずに光が消えた方を見てゐた
(原田 町)願うのはぴんぴんころりと言う友よ今日も元気にペダル漕ぎゆく