題詠100首選歌集(その18)

         選歌集・その18

001:呼(100〜124)
佐藤紀子)「おかあさ〜ん」と呼んで泣きゐしをさな児が今父としてがつしりと立つ
(金井二六時中)さんづけが呼び捨てになりママになり一周まわって「まりさん」へ戻る
(藻上旅人)人づてに訊いた電話で呼び出した ほどなく夏は終わりを告げる
(粉粧楼)呼吸するよりも優しく歌ってね眠れぬ夜を知っているなら
004:栄(87〜111)
佐藤紀子)「栄養」は殆ど死語になりはてて「カロリー0」が取つて変はれり
(那珂由比)あの日まだ栄えてた僕らの町の噴水の虹を覚えているかい?
(JINRO)蝉しぐれ栄えしときはうたかたの 泡と消えゆく風の残像
(藻上旅人)栄光を夢見た日々が春ならば ほどなく夏は終わりを告げる
047:四国(26〜50)
(キョースケ)四国から来たという転校生に謎めいた笑みを見る夏の暮れ
(廣珍堂)対岸の四国は霞み見えぬ日もフェリー乗り場のゲート錆びゆく.
048:負(26〜50)
(文乃)正の数負の数足しゆく危なげな鉛筆の先を見守っている
(廣珍堂)適切な負荷を命ずる検査値に一駅歩く160円.
049:尼(26〜50)
佐藤紀子)尼寺の写経の会に参加する白きあやめに雨の降る午後
050:答(26〜50)
(諏訪淑美)答案の裏に私の似顔絵を描いてた生徒親になったか
(コバライチ*キコ)答弁が答弁ならぬ国会の中継見れば上がる血圧
(文乃)あの春に出した答えのその重さ抱えたままで五年目が来る
(さくら♪)欄外の絵も字もすべて汲み取って赤丸つける解答用紙
051:緯(26〜50)
(五十嵐きよみ)北欧の緯度の高さを思いつつ白夜にまつわる短編を読む
(はぼき)結果より過程に意味があるはずと報告書にて経緯を語る
(諏訪淑美)己が住む緯度をたどって地図の上日がな一日旅する雨の日
(湯山昌樹)緯度などをふだんは気にもせぬものを岬に立てば思うことあり
052:サイト(26〜50)
(コバライチ*キコ)梅雨明の猛暑の東京ビッグサイト人も展示もジリジリ焼ける
054:踵(26〜50)
(文乃)すり減った靴の踵よあの街にもこの町にも散るわたしのかけら
(辺波悠詠)俯いて踵を返した君の背の 月の裏側めいた絶望
060: 孔雀(29〜53)
(雪)得意気に羽を広げた孔雀たちのたくさんの目がわたしを探る
(いまだなつき)服装が自由な職場の広告の孔雀の羽根はみな同じ柄
(文乃)漆黒の屏風に浮かぶ刺繍絵の孔雀の羽は黄金(きん)に燃え立つ
(ドルチシマ・ミア・ヴィタ)秋されば小さき星の降るごとくうすむらさきの孔雀草咲く