題詠100首選歌集(その19)

 この催しの締め切りも、後10日近くに迫った。どうも応募作が伸びない。現在の完走者が33名で、この分だと恒例の百人一首を作るのには難渋しそうだ。締め切ってみないと判らない話ではあるが、ひょっとしたら、今年は百人一首の選定は諦めざるを得ないかも知れない。いずれにせよ、ランナーの方々の御健走を祈るのみである。


         選歌集・その19


007:度(89〜113)
(kei)大きめのポケット小銭をじゃらつかせ空が青いよ女は度胸
(はぜ子)七度目の夏の頃には忘れゆく燃えた羽虫があかかったこと
(藻上旅人)会う度に親しくなるのが切なくてほどなく夏は終わりを告げる
(鮎美)我が親は我が姉の親でもありて二度とは帰るものかふるさと
008:ジャム(87〜111)
(さくら♪)信州の山の香詰めし桑の実ジャム 喜寿を過ぎたる伯父より届く
(美裕)コトコトとジャムを煮詰める真剣な君の横顔見つめ続ける
(金井二六時中)二時間は早く目覚めた退院日ママレードジャムたっぷりと塗る
(藻上旅人)美しい君の旋律なぞるジャム ほどなく夏は終わりを告げる
(わんこ山田)トーストの上なるジャムの輝きを許せず齧る朝だってある
009:異(86〜110)
(美裕)異国から届くメールの受信音 君の想いを抱きしめる朝
(美亜)いつか行く異国の街の片隅で咲く花の名を想像してる
(鮎美)悪態を封じてしまふくちびるに異国の匙の歪みのやさし
(青山みのり)ベランダにあれば異端の者としてあまたの花に見られおりけり
016:荒(62〜86)
(ほし)荒つぽい運転をする従弟伯母(いとこをば)助手席でわれはしづかになりぬ
(さかいたつろう)荒野でも風さえあれば帆を張れる きみは船にも凧にもなれる
(金井二六時中)若さゆえ鼻息荒く語った夢を下方修正しながら生きる
(睡蓮。)荒れ果てた子供の部屋のけもの道分け入り進む掃除機の音
(牧童)細々とやつれて荒れた手で招く 病の母に風が応える
018:救(61〜85)
(ほし)救急車のサイレンが鳴り病院の食堂の皆食べるのを止む
(美裕)なにげない友の言葉に救われた気がして秋刀魚丁寧に喰う
(金井二六時中)真夜中のどこかで聴こえる救急のサイレンのおと孤独をてらす
(ドルチシマ・ミア・ヴィタ)救急のサイレンとほく鳴るまひるトマトソオスのふつふつと煮ゆ
053:腐(26〜50)
(原田 町)横町の豆腐屋ついに廃業しスーパーに買う充填豆腐
(有櫛由之)百合の木の木下闇より黝揚羽たちて微かに腐臭のにほふ
(文乃)ゆっくりと豆腐に焼き色つけていく時間も旨味になれ、チャンプルー
(RussianBlue)昆布出汁であっさり炊いた湯豆腐の滋味染み渡る師走の夕げ
(海)十日間漬けた豆腐の味噌漬けの深い旨味が冷酒に似合う
(小春まりか)四人から三人になり豆腐切る筋を一から考え直す
056:リボン(26〜50)
(はぼき)苦労して掛けたリボンをまたほどく入れ忘れなどないのだけれど
(文乃)三等の黄色いリボンはためかせ応援席へ吾子は駆けゆく
(湯山昌樹)耳にリボンつけたる猫をかき分けてその土地らしき土産をさがす
057:析(26〜50)
(コバライチ*キコ)透析をしながら沖縄巡りゐる師の笑む夏の便り届きぬ
058:士(26〜50)
(原田 町)生徒名の横に士族と記されし卒業証書もひとつの時代
(コバライチ*キコ)自己破産の処理はプロよと司法書士涼しい顔でさらりと言いき
(湯山昌樹)この夏は富士に乱雲かからずに夕立もなく乾く高原
(由子)松前藩下級武士なる先祖いて下手な精進料理供える
(ドルチシマ・ミア・ヴィタ)園庭にあそぶをさなら見守れるなかに身重の保育士ひとり
059:税(26〜50)
(文乃)増税をごまかすような愛らしさエゾユキウサギの二円切手は