題詠100首選歌集(その20)

     選歌集・その20


017:画面 (62〜86)
(RussianBlue)録画したあの日の君の微笑みが画面に滲む孤独な夕べ
(さくら♪)青空を光る画面に変える夏 虹の向こうで白が弾ける
(鮎美)爛漫の桜花の下にも俯きてちひさき画面に囚はれてをり
019:靴(59〜83)
(ほし)ゴールデンウイークに靴を洗ひたり晴天の赤き椿の庭で
(睡蓮。)その靴が合うなら履いていけばいいシンデレラには誰でもなれる
(青山みのり)コスモスに靴をはかせて秋風に背を押される一歩が見たい
020:亜(61〜85)
(只野ハル)亜光速まで加速して振り返り確かめて見る赤方偏移
(睡蓮。)若ければ髪亜麻色に軽やかに染めて心も揺れていたかも
055:夫(26〜51)
(原田 町)令夫人と書かれし席に座らされワイングラスをおずおず挙げる
(短歌はじめます、さざなみ)目覚めると味噌汁の香の漂ひて夫の味なる土曜の朝餉
(コバライチ*キコ)夕暮れの雷門は賑わひて人力車夫は声張り上げる
(文乃)メールでのやりとりだけが続くとき夫は少し透明になる
062:万年(26〜50)
(文乃)事務用の万年筆で端正な文字書く女性(ひと)の優美忘れず
(湯山昌樹)ペリカンの万年筆を手にしたらそれが私の歌詠みスイッチ
(牧童)生前の母が育てた万年青らも 秋風のなか雑草となる
063:丁(26〜50)
(はぼき)丁重に欠席わびる葉書来て友病床に在ることを知る
(文乃)三ヶ月ぶりのあなただ 開けたての珈琲豆を丁寧に挽く
(牧童)母の死後知る本籍は二丁目で 僕が知らない風が吹く街
064:裕(26〜50)
(五十嵐きよみ)裕福な日本はとうに過去となり誰もがたやすく下流に落ちる
(海)裕の付く名前はさらに増えるだろうグラフの右に下がりゆく中
(わんこ山田)お財布に少し余裕がある時の私をわたしは覚えていたい
065:スロー(26〜51)
(はぼき)あこがれのスローライフにオススメと謳う村にも光ファイバー
(諏訪淑美)スローライフ推奨している評論家朝からテレビにあたふた出ている
(文乃)鮮やかなフリースローでゴミ箱にシュートを決めて今日も快晴
067:府(26〜50)
(文乃)駆けあがる仔犬のかたちの京都府の右足の先に君は住んでる
074:唾(26〜50)
(五十嵐きよみ)もどかしくページをめくる映画なら固唾をのんで見守る場面
(湯山昌樹)いたずらが天に唾することとなりケチな奴だと自分を笑う
(辺波悠詠)幽霊が夜な夜な出ると眉唾な話の種になる我が実家