題詠100首選歌集(その21)

             選歌集・その21


032:昏(51〜75)
(海)山際にカラスの群れは吸い込まれ空に大地の溶ける黄昏
(睡蓮。)どうするのこの完璧な秋晴れを持て余すまま黄昏になる
(杜崎アオ)きのうよりきみがとおいね抱擁を昏い川だと思って渡る
061:宗(26〜51)
(はぼき)前線を挟んだ向こう側にさえ同じ宗派の人がいるはず
(文乃)迎え火を焚かぬ宗派もあるのだと嫁して初めて知る盆休み
(コバライチ*キコ) 宗家たる品格備えし若者の迷ふことなき足さばきなり
066:缶(26〜51)
(五十嵐きよみ)クッキーの缶にしまった思い出を慈しむごと作家は語る
(はぼき)本当はスペシャルパフェの気分だが缶コーヒーでカッコつけてる
(文乃)サイダーの缶をぷしゅっと開けるとき君の手元に溢れ出す夏
(廣珍堂)ガシャコンと缶コーヒーが落ちてきて君はいきなり夏服になる
(由子)缶詰めのご馳走レシピが増えていた 母がホームに行きて三年
(海)餞別にもらったサンマ缶詰は海洋高校食品科製
(辺波悠詠)胸に抱くGODIVAの缶の秘やかな残り香だけが優しい夜明け
(睡蓮。)いつまでも題詠短歌進まずにビールの空き缶増えるテーブル
068:煌(26〜52)
(はぼき)笑い声煌めくころはとうに過ぎただ力なく息もれるだけ
(五十嵐きよみ)五十年先の未来を知らぬまま煌めいていた昭和の記憶
(文乃)華やかに煌めくジュエリー詰め込んで家庭画報がずっしり重い
(廣珍堂)志賀の湖(うみ)今日も遥かに煌めきて小舟のひとつ通りゆきたり
(さくら♪)黄金時代(ゴールデンエイジ)を生きるキミたちの煌めく今に魅せられている
(わんこ山田)「煌めく」と読めた私を褒めましょう口から出まかせだって実力
069:銅(26〜50)
(はぼき)肩の雪払うことさえままならず見上げる王の銅像あわれ
(湯山昌樹)よく使う言葉で子らをなぐさめる 「銅は金と同じと書くのさ」
070:本(26〜50)
(はぼき)軽口をたたいてみても本番に弱い自分に変わりはなくて
(有櫛由之)篝火の明るみ昏む本陣にきりぎりす鳴くほどのほころび
(コバライチ*キコ)本郷の古き画廊の壁の傷 絵の道化師が眺めていたり
(原田 町)図書館で借りるかブックオフで買う本代ケチる暮らしになりぬ
(廣珍堂) 蝶々には重すぎるやうな風吹きて草枕のうへ文庫本置く.
(わんこ山田)ふたりには小さな傘がもどかしい雨が本気を出してきました
071:粉(26〜50)
(五十嵐きよみ)湯上りの肌にはたいた天花粉 遊び回ったひと日が終わる
(有櫛由之)黒蝶の鱗粉ほほに光らせて帰り支度の墓参のをとこ
(文乃)粉砂糖ふわりとかけてお洒落したシュークリームがすまして並ぶ
(雪)小麦粉をバターで炒めている母の右手に馴染んだ木べらのへこみ
072:諸(26〜50)
(RussianBlue)憧れはいつしか嫉妬と変わり果て錆びた諸刃が我が身を襲う
(文乃)諸事情は話せないままやんわりと外食の誘い断っている
(わんこ山田)ふわふわとあちらこちらに振りまいた私の愛が諸悪の根源
073:会場(26〜50)
(中村成志)会場は不意にしずまり 演台の縁を掴んだ 雄指の太さ
(五十嵐きよみ)客がみな帰ったあとの会場の椅子にぽつんと文庫が残る
(コバライチ*キコ)冬ざれの試験会場みな黙し共通一次受けし雪の日
076:舎(26〜50)
(文乃)出荷日の迫る子牛にもう一度会うため吾子は牛舎へ急ぐ