題詠100首選歌集(その22)

             選歌集・その22


006:婦(95〜119)
(kei)暗雲はただ少しずつ晴れてゆく夫婦茶碗は同じ大きさ
(美裕)婦人科の重い扉を開ける日の空の青さにただ立ち尽くす
(杜崎アオ)はつなつの妊婦ははるか海をもつ円周率の永遠ほどの
014:込(76〜100)
(ゆみこ)夕暮に絵本のなかへ滑り込み占いどおり猫になる夜
(金井二六時中)読みさしの本に親指挟み込みクロワッサンをつまむ土曜日
(ドルチシマ・ミア・ヴィタ)炊き込みしうめぼしのたねとりのぞきふはりとよそふ秋の新米.
015:衛(69〜94)
(金井二六時中)ダブルスの前後衛のポジションが私生活では逆転してる
(牧童)僕はただ守衛のように仮眠する 死に行く母と無風の闇で
075:短(26〜51)
(五十嵐きよみ) 日常の背後にひそんだ本心が見え隠れする短編を読む
(雪)健全な脚と短いスカートをふるわせながら季節はすすむ
(ドルチシマ・ミア・ヴィタ)八重ざくら千朶万朶ににほふあさ訃報をつぐる短き電話
(廣珍堂)ローマにて髪を短く切る王女フイルムの雨も輝いてゐる
077:等(26〜50)
(文乃)焼きたてのピザを大きく六等分に切って家族の揃う幸せ
(ドルチシマ・ミア・ヴィタ)カステラを十等分にきることに慣れて五人の家族団欒
078:ソース(26〜50)
(湯山昌樹)厚き肉をステーキソースで焼いていく姪の背中に自信が見える
(ドルチシマ・ミア・ヴィタ)ふつふつとホワイトソースは沸点にちかづきながら粘度増しをり
(雪)朝の陽をソースの隠し味としてひとさじ加えるコーンスープへ
(廣珍堂)てんぷらをウスターソースで食う夜は吊り下げライトが首を傾げる.
(牧童)母偲び名店のカツ買い求め ソースたっぷりかけても哀し
079:筆(26〜50)
(はぼき)形から入るタチゆえ机には万年筆と原稿用紙
(文乃)ぼろぼろの筆箱気にせず使ってる娘はかつての私のようで
(コバライチ*キコ)筆ペンの墨色ただに黒きのみ「御祝」の字ものつぺりとあり
(キョースケ)さらさらと一筆箋に歌を書くきっときみには着物が似合う
080:標(26〜50)
(ドルチシマ・ミア・ヴィタ)住之江の岸にそびゆる摩天楼朝日を浴びて墓標のごとし
(廣珍堂)標野には雨にふるへる花の声大君はいま立ち止まりたり.
(小春まりか)標的に定めてもなおトリガーが引けないでいる恋愛ゲーム
081:付(26〜50)
(文乃)少女らのあこがれ映す歴代の『りぼん』の付録の本眺めおり
(諏訪淑美)付け足した文にちょっぴり辛口の風刺加えた別れの手紙
(ドルチシマ・ミア・ヴィタ)手首には識別のタグ付けられて吾子のねむりし新生児室
082:佳(26〜50)
(はぼき)スナックに手が伸びたまま固まって映画はついに佳境となりぬ
(海)鶴の絵が佳作に入り隅っこに赤い付箋が丸まっていた
(わんこ山田)どうしても佳作止まりの人生で名前の「佳」の字のせいかと恨む