題詠100首選歌集(その24・25・26)

 いよいよ最終日である。例年よりかなり投稿数が少ないが、それでもここ数日はかなりのペースに上り、今日あたり、もう一度選歌集を載せることになるかも知れない。→その25とその26を追加した。
 それにしても、この数では、恒例の百人一首を作るにはかなり無理がありそうであり、そもそも選歌集に載せた作者の数が100人に達しそうにない。そうかと言って、百人一首を諦めるには未練もあるので、「1人の作者から複数の作品を選ぶこともあり得る」という弾力化(?)を図って、「似非百人一首」を作ってみようかという気もしないではない。いずれにせよ、締切りの後に全体を眺めて、もう一度考えてみるしかない話かと思う。

              選歌集・その24(その25・その26に続く)

087:当(26〜50)
(五十嵐きよみ)適当に選んだだけの一冊が忘れられない一冊になる
(雪) 適当を許してくれぬ二歳児に監視されつつ描くアンパンマン
(わんこ山田)ほどきたい当時の彼がまだ持っているらし初めて編んだマフラー
088:炭(26〜50)
(文乃)炭酸水はじける速さで夏がゆくあなたが父でいられる時間
(はぼき)「炭焼」の二文字があればおいしさが何割か増すような気がする
(諏訪淑美)家族皆で囲んだ火鉢の炭の赤甦ります木枯らし吹く夜は
(コバライチ*キコ)爺さまは炭を背負いて山小屋へ 絵本の中は花盛りなり
(廣珍堂)炭焼きの小屋は小さき旧街道白い軽トラ一台留まる
089:マーク(26〜50)
(はぼき)たんたんとマークシートを塗りつぶし未来を拓く鉛筆の音
(ドルチシマ・ミア・ヴィタ)ぬりつぶすマークシートにわが生の要約されてなにやら虚し
(わんこ山田)一年を経ても危なっかしい恋初心者マークをつけ続けたい
090:山(26〜50)
(五十嵐きよみ)噴火まで半日 古代ポンペイを舞台にドラマは山場へ向かう
(ドルチシマ・ミア・ヴィタ)実山椒炊く夜はふけて雨音のひときはしげくきこゆる厨
(諏訪淑美)故郷の家から見ていた山並みもおぼろになりたり長き無沙汰で
(牧童)山場越え嵐いままた静まりて まだ生きている母に寄り添う
091:略(26〜52)
(文乃)「前略」と書き出してみればするすると嘘並べられる大人になった
(小春まりか)前略のしめの言葉が分からずに「またね」と書いた君への手紙
(雪)踏切とコンビニしかない略図へと金木犀の生け垣を足す
(杜崎アオ)そのままのわたしがめざめまたねむる略語だらけのまちのかたすみ
092:徴(26〜50)
(文乃)回復の徴候見えて軟膏を傷に塗る手がちょっぴり弾む
(コバライチ*キコ)ざわざわと世の変わりゆく徴(しるし)あり安保法制秘密保護法
(由子)特徴を暇あるままに眺めゆきリスの口元フェルトで創る
(わんこ山田)似顔絵に誇張されちゃう特徴が微妙カワイイから遠ざかる
094:腹(26〜51)
(文乃)このお腹にみんな入っていたのにね 子どもは次々親の背を抜く
(湯山昌樹)「お前、腹、出たな」と友に笑われる 三十年ぶりに会う通夜の席
(海)悩みには鈍感なのに腹の肉の増加はすぐに気がつく夫
095:申(26〜50)
(五十嵐きよみ)買ってきたばかりの本と淹れたての珈琲 申し分のない午後
(ドルチシマ・ミア・ヴィタ)リスザルの敏捷さもて雲梯をつたふむすめは申年うまれ
(廣珍堂)身代わりの赤の眩しき庚申堂 奈良町の風ゆつくりと過ぐ.
096:賢(26〜50)
(ドルチシマ・ミア・ヴィタ)賢者らのもてきし香をたきしめて馬小屋の夜しづかに更ける
(雪)賢そうに見えると笑い合いながら老眼鏡であそぶ吾子たち
097:騙(26〜50)
(文乃)年寄りを騙す健康機器の店ぱくりと戸口開けて待ちおり
(諏訪淑美)騙された振りして騙し騙してる積りが騙され金婚迎えぬ
(小春まりか)騙されているんだとしてもこのままで甘すぎる言葉受け続けたい
(わんこ山田)腕を差し出せばするりとかわされて騙し絵の中ハグはまぎれる
(たえなかすず)秘めやかに騙されたので秘めやかに別れたいという ひとにふる雨



 
        選歌集・その25(その26に続く)

011:怪(85〜109)
(さくら♪)虫かごと麦わら帽子セミの声 みんなが怪獣だったあの夏
(鮎美)怪談を卒業したる姪つ子はこの世あの世も我が世と為せり
012:おろか(79〜104)
(さくら♪)眠られず北天の星見上ぐれば おろかがゆえに想い募りぬ
(金井二六時中)恋愛はおろか誰かを好きになることもないまま引くプルトップ
(杜崎アオ)身を引くも身をまかせるもまたおろかレモンの皮をひんやりと噛む
021:小(59〜84)
(さくら♪)さぁどうぞ♪ 小さな恋の物語ここから先はあなたが主役
(ほし)和箪笥のうへの小人の人形の数がたまには合はなくなりぬ
(るいぼす)床下の小人家族のリビングをのぞいてみたい雨降りの夜
(牧童)また少し小さくなった母がいる 棺に花と最後の風を
(鮎美)過酷なる使命のままにとこしへに立て青銅の小便小僧
022:砕(57〜81)
(金井二六時中)ただしくは恋が砕けるわけじゃなくはじけて散るは恋の妄想
(海)おばさんが踏んで砕いたじゃがりこと群がる鳩と噴水広場
(青山みのり)ゆめみがちな氷砂糖は砕かれて紹興酒へと溶けゆくゆうべ
024:真(54〜79)
(廣珍堂)陽炎のなかをオロオロ歩くとき高圧鉄塔傾き真昼
025:さらさら(55〜81)
(ドルチシマ・ミア・ヴィタ)さらさらの髪のをみなにさそはれてインド更紗を見し秋真昼
(わんこ山田)「あいたい」の「あい」はどの字を使おうか口にする気はさらさらないが
(青山みのり)穏やかにさらさらさらと風が吹きいまだ戦の絶えぬこの星
(柚木ことは)さらさらと星が流れていく町で今宵も誰かが願いをかける
(杜崎アオ)直角にまがるさみしさ町の名をおぼえる気などさらさらなくて
(大島幸子)鈴なりの七夕飾りさらさらと葉擦れの音が響くコンコース
027:ダウン(60〜85)
(ぜろすけ)カフェバーの公衆電話にコイン入れダウンタウンの夜はこれから
(大島幸子)災害時緊急避難ベルが鳴る『ロンドン橋はフォーリング・ダウン
028:改(61〜86)
(金井二六時中)子をつれた初の帰省に改札のむこうに見えた父の欠けた歯
(とみいえひろこ)くちびるを尖らせねむる子といたり改革は月のようにはげしく!
(大島幸子)かあさんが徹夜で編んだふるさとのあみものブック改稿二版
029:尺(55〜80)
(ゆみこ)銀の葉の雫となりてひっそりと尺取虫の足音を聞く
(柚木ことは)押し入れに母が遺した鯨尺 まずは換算するところから
030:物(53〜78)
(影山光月)「物欲はさらさらない」と言いながら君が見ているテレビショッピング
(牧童)通夜一人ふとよみがえる物語 母の匂いと団扇の風と
(杜崎アオ)訪れる春の数だけ名があって古い書物を閉架にしまう
(大島幸子)肌寒く物憂い秋の夕暮の窓の外には照る山紅葉



 締切近い時間になって、その26まで来た。残りは明日に回そうと思う。恒例の百人一首がどうなるのかそれはまだ私にも判らないが、「百人」は無理だということははっきりして来たようだ。



     選歌集・その26


031:認(51〜76)
(牧童)認印ひとつ押すごと母の死が 戸籍の底で風化していく
033:逸(51〜75)
(るいぼす)常識を逸脱してる価値観のベクトルを5度傾けてみる
(わんこ山田)簡単なゴロを後逸してしまう夢繰り返し芝生の香り
034:前(51〜77)
(青山みのり)前向き。を絵にしたような人といて明日の空にはふれないでおく
(大島幸子)三ヶ月前まで住んでいた街の駅ビルにあるホテルに泊まる
035:液 (51〜77)
(ドルチシマ・ミア・ヴィタ)きみがため弁当つくる秋の朝あはき黄色の卵液を溶く
(杜崎アオ)めくるたびページを減らすゆびさきに消毒液のつめたいにおい
036:バス(51〜75)
(美裕)月明かり身体の奥のけだるさの乳白色に揺れるバスタブ
(海)秋らしい色に染まった樹々の中をオレンジ色のバスが過ぎ行く
(青山みのり)バス停の名のかすれたる道の先に文字を持たない海がひろがる
(大島幸子)自宅より徒歩圏内のバス停に余白ばかりがある時刻表
038:読(51〜76)
(海)キャラクターの気持ちはちゃんと読み取れるくせにわからぬ自分の気持ち
(牧童)病床の母の想いを読み取れず カップ酒干す風下の闇
(睡蓮。)そこらじゅう読みかけの本散らかして私らしさをまだ探してる
(青山みのり)読み取れぬこと多々ありて子に問うも「フツー」と閉じてしまう横顔
(杜崎アオ)旅はいつもひとりだきみが読みさしのページにはさむたばこのにおい
039:せっかく(51〜75)
(海)はじめてのキャンプせっかく来たけれどムシガコワイで過ぎた一晩
(青山みのり)ひとつだけせっかく残してあげたのに木守の柿は色褪せてゆく
041:扇(51〜77)
(廣珍堂)シテ方の扇は舞ふを止めてをり舞台はすでに冥土となりぬ
(睡蓮。)だんだんと出番がなくなる扇風機”宇宙人”さえ秋には来ない
(青山みのり)上品な扇子のような言い訳をさらに削ぎつつ夕暮れをゆく
098:独(26〜54)
(文乃)反省とはどうあるべきか日独の差異がするどく浮き上がる夏
(ドルチシマ・ミア・ヴィタ)補助輪をはづして漕ぐ子はなやかにゑみて世界を独り占めにす
(はぼき)孤独ってどんな感じ?と尋ねればアンモナイトの化石が笑う
(いまだなつき)反響音遅れる独りのリビングで名刺の束を繰っている夜
(由子)レンタ猫レンタ彼氏もあるらしい独り者にもニセのイヴの夜
099:聴(26〜55)
(文乃)聴く度に元気になれるその声に逢いたくてまたラジオをつける
(廣珍堂)山ノ辺に神楽の音の立つを聴くいよよ霞のふかくなるころ
(キョースケ)聴覚が冴えわたるほどきみの声に敏感になる 月が出ている
100:願(26〜51)
(ドルチシマ・ミア・ヴィタ)「子の養育に専念するため」退職の願を書きし遠き冬の日
(いまだなつき)願わくば明日は上手く眠れるよう羊がうまく柵越えるよう
(廣珍堂)誓願のどれもこれもが半端なり歌帳をひらく堂の縁側