題詠100首選歌集(その27)

 これがまとまった選歌集の最後なのだが、まだ積み残しがあり、落ち穂拾いの掲載は明日に回すことにしたい。


            選歌集・その27

037:療(51〜77)
(ドルチシマ・ミア・ヴィタ) がん治療否定の本を借り出づる図書館のそとふりみふらずみ
(たえなかすず)まみどりの夏の終わりの響きして人影のなき森診療所
040:清(51〜76)
(杜崎アオ)清らかにひとつのたまの割れてのちはなびはきえる 闇をのこして
042:特(52〜84)
(廣珍堂)雪のなかテールランプが去ってゆく気動車が引く寝台特急
(小春まりか)特別なことはないけど気を引いてみたくて呑んでみるウイスキー
(睡蓮。)特別にチューハイ飲んだりしましたが恋歌も出ず眠くなるだけ
(杜崎アオ)特にないと答えてそっと手離した紙ひこうきが川を越えゆく
(青山みのり)特技とはいえないけれど可哀想なオンナのふりで散歩できます
(スコヲプ)特にないことと全てがあることが似てるビュッフェに集まっている
(久野はすみ)井荻とう中途半端な名前にて特急準急通過してゆく
043:旧(51〜76)
(るいぼす)旧姓を10年ぶりに書いてたら墨の香りが漂ってきた
(美裕)旧友の手紙出てきてあのヒトの温もりをふと思い出す午後
(牧童)旧道を押す車椅子母を乗せ これが最後の追い風の坂
(睡蓮。)結婚後年賀状のみかわし合う友の旧姓思い出せない
(たえなかすず)旧姓で呼ばれ煙草に火をつける過ぎた愛とはうつくしい傷
045:売(51〜76)
(ドルチシマ・ミア・ヴィタ)売り言葉買ふ気にならずむなしくてただぼんやりと海をみてゐし
(海)半額の札を貼られた焼売が規則正しく並ぶスーパー
(わんこ山田)売られたら買いたい喧嘩がありましてキバが触れますキスしていても
(たえなかすず)この花も一緒ですねとたばねる手 運も不運もすべて売られる
(久野はすみ)ひとことも話したくないときもありつつみつづける焼売あまた
047:四国(51〜75)
(ドルチシマ・ミア・ヴィタ)甲州街道四国屋の夜の更けゆけば三惚れうどんのたまごをくづす
(柚木ことは)四国にて織られたタオルに包まれて綿雲の中漂っている
(スコヲプ) この血には四国のぶんもあるだろうすこし強めに踏む左足
048:負(51〜75)
(たえなかすず)逢えないという返信がすぐに来る 勝負ではなく海が見たいの
(柚木ことは)じゃんけんで負けて蛍にさえなれず蓑虫として風に揺られる
(久野はすみ) 勝ったとは言わないまでも半分の負債を返したような二十四時
049:尼(51〜75)
(miki)穏やかな尼僧の如く微笑みて黙してひとり母は眠りぬ
(柚木ことは)大原の尼寺に降るにわか雨傘打つ音を苔庭で聞く
(とみいえひろこ)尼のいる山と教わりゆく道の白き花かな花はさみしい