題詠100首選歌集(その28・最終版)

       選歌集・その28(最終版=落ち穂拾い)


001:呼(125〜137)
(太田青磁)吾の名を呼ばれたようで振り向けば見渡す限り一面の海
(わんこ山田)仕事中ですね出るはずないことと呼び出し音がちいさくうずく
002:急(115〜132)
(藻上旅人)急ぐのはつのる私の気持ちから ほどなく夏は終わりを告げる
(杜崎アオ)雨もまたなにかのしらせ交差する路面電車はさして急がず
(久野はすみ)アイロンのいらないシャツをきみは買う十一月の風に急かされ
003:要(111〜128)
(太田青磁)断捨離のちやっぱり必要だったかと捨てたその日にまた買い直す
(睡蓮。)要点をまとめきれない幼さが言葉を増やす親子の会話
(大島幸子)明日から新たな街で暮らすのでこの合鍵はもう不要です
004:栄(112〜128)
(鮎美)女郎らの生き来し証ふるさとに栄町とふ地名残れり
007:度(114〜124)
(南極あいす)「一度だけ」 思って吐いた 嘘のため 重ねる嘘の 重さにまいる
008:ジャム(112〜121)
(青山みのり)トーストに子の手土産の無花果のジャムをひと匙 秋は美味しい
(南極あいす)恋人の ために用意を したジャムが 重く鎮座を する冷蔵庫
(久野はすみ) 崩れたるその先の日を思うとき新高梨のジャム透きとおる
012:おろか(105〜107)
(泳二)豹柄はおろかひまわり柄さえもいない商店街に佇む
013:刊(99〜104)
(久野はすみ)病室の夕餉は早く父はまた夕刊のなき地方紙を繰る
014:込(101〜107)
(大島幸子) 薄めても消えずに残る焚き込んだ泥の薫りのような恋です
(久野はすみ) いつ来ても四、五羽の鳩をとまらせて見込まれているような街灯
(泳二)自転車で行ける距離ではなさそうなネギ最安値の折り込みちらし
016:荒(87〜98)
(太田青磁)信号で止まりたくない 荒川の土手の平地を自転車飛ばす
017:画面(87〜96)
(新野みどり)しあわせの断片沈むパソコンは背景画面が深い湖
(大島幸子)想い出は消えないように鍵掛けて小さなカメラ画面の奥に
019:靴(84〜94)
(さわか)底知れぬ靴の重みをいぶかしみ午前0時のタクシーに乗る
(泳二)東京で初めて買った靴をはく「初めまして」と言いながらはく
020:亜(86〜95)
(久野はすみ)いちじくの葉影によれば白亜紀のいきものたちの深き息づかい
023:柱(82〜86)
(大島幸子)もう居ないあなたを想う春の日に柱の傷は一昨年のまま
(土乃児)小柱のかき揚げさくさく箸を入れ熱い酒干す冬こそ楽しき
(久野はすみ)充分に育った木からはずせない支柱のようにふるさとはあり
044:らくだ(51〜74)
(ドルチシマ・ミア・ヴィタ)おほきなるらくだを針のあなにとほす夢を見たりきあけがたちかく.
(牧童)黎明にらくだのシャツで行く父を 風と見送るアカギレの母
(福山桃歌)吹き荒ぶ日々の嵐に耐えているまつげはらくだみたいに長い
(久野はすみ)さよならと手を振ったとき夕ぐれのらくだのような目をしていたよ
046:貨(51〜74)
(辺波悠詠)地を踏んだ経験もない国々の硬貨に母国の硬貨を払う
(ドルチシマ・ミア・ヴィタ)硬貨落つる音に種類を聞き分くと目しひのをみな笑みつつ言へり
(睡蓮。)長々と貨物列車の数かぞえやっと踏切上がれば夕日
(美裕)文庫本片手に私待つ君に紅葉の降りて百貨店前
(杜崎アオ)貨物車とぬるい夜風がすれちがう遠いものほど手をのばしたい
(柚木ことは)外つ国で使い切れずに持ってきた鷲の硬貨が財布に眠る
(福山桃歌)真夜中の貨物列車を見送ってきみが来るのをただ待った駅
050:答(51〜73)
(たえなかすず)また会おう駅で答えはこう言おうそれはいつもの夕暮れですか
051:緯(51〜70)
(わんこ山田)「なし崩し」それがもっとも端的な経緯(いきさつ)残りは「ふたりの秘密」
(青山みのり)さくら樹と腐す雨にもそれぞれに進みつづける春の秒針
054:踵(51〜70)
(わんこ山田)癖のあるすり減り方が微笑まし君の踵と歩き続ける
055:夫(52〜68)
(御糸さち)靴下が方っぽ道に落ちていて夫のに似ているなと思う
056:リボン(51〜67)
(睡蓮。)お下がりの兄のジーンズ履かすため花とリボンのワッペンつける
(柚木ことは)少女時代リボンの騎士に憧れて白馬代わりの白い自転車
057:析(51〜67)
(わんこ山田)分析は無粋解析なら許す恋はすこぶる繊細なもの
(杜崎アオ)かさかさと薄まるそらの分析をすれば一枚いちまいが秋
058:士(51〜66)
(牧童)友同士語り広がる風聞は 母とは別の女の葬儀
060:孔雀(54〜72)
(わんこ山田)入ってはいけない夜の応接間孔雀の羽根の目が見つめくる
(セツナ)寒い日に孔雀を見つめ呟いて「あったかそうね」なんて言う君
(青山みのり) ひっそりと雨に打たれる孔雀石 春のみぎわに育ちはじめる
061:宗(52〜62)
(青山みのり) あさがおは国も宗派も無縁にて夜明けと共に咲き競いたり
063:丁(51〜63)
(杜崎アオ)手続きのひとつのような死であれば丁寧にパンケーキ焼く午後
065:スロー(52〜65)
(青山みのり)スロープを共に下った夕暮れの土手にあなたを飾ってみたい
066:缶(52〜62)
(土乃児)ためらいつドロップスの缶そっと取る火垂るの墓を見た翌朝は
067:府(51〜64)
(牧童)冥府から母の誘いが来るを待つ 午前三時の窓打つ風雨
070:本(51〜64)
(御糸さち)婚姻届と離婚届の記入見本 横浜太郎に何があったの
(青山みのり)つかのまの笑顔のために下手くそな関西弁で絵本読みたり
072:諸(51〜64)
(杜崎アオ)おやゆびのやくめについて諸説ありつり革にのこる誰かのぬくみ
074:唾(51〜67)
(青山みのり)蔓薔薇の恋のもつれを飼い猫と固唾を飲んでみまもる五月
(土乃児)固唾呑む観客の刻支配して羽生結弦は滑り始める
076:舎(51〜65)
(柚木ことは) 取り壊し決まった校舎に落書きし「ありがとう」って涙ぐむ春
(大島幸子)たいていの校舎裏には猫がいて僕の安全地帯はそこだ
(青山みのり)赤き陽にいつもあたためられている校舎の影は僕にやさしい
(土乃児)斎宮に野の花一枝献ぜむと若き舎人は結界侵す
077:等(51〜62)
(青山みのり) 寸分も狂わぬように等分に切りわけてみた今日の青空
079:筆(51〜60)
(杜崎アオ)おおぞらに冬の絵筆の冴えた青 かなしいことはもうおこらない
080:標(51〜60)
(杜崎アオ)あとはもうしずまるばかり標本にガラスのふたをすればみずうみ
081:付(51〜61)
(セツナ)「おまけ付き」お菓子につられ買う君の幼さが好き素直さが好き
(青山みのり)忘れたいことばかりある日常に色あざやかな付箋が揺れる
082:佳(51〜61)
(青山みのり) お祝いを選びあぐねて二人して話いよいよ佳境に入る
099:聴(56〜59)
(大島幸子)穏やかな寝息を聴いて寝る夜がなるべく長く続けと願う




 この選歌で採った作品なし
005:中心(120〜124) 006:婦(120〜126) 009:異(111〜119) 010:玉(111〜115) 011:怪(110〜112) 015:衛(95〜101) 018:救(86〜96) 021:小(85〜88) 022:砕(82〜84) 024:真(80〜81) 025:さらさら(82〜83) 026: 湿(85〜88) 027:ダウン(86) 028:改(87) 029:尺(81〜82) 030:物(79〜80) 031:認(77〜80) 032:昏(76〜82) 033:逸(76〜78) 034:前(78〜80) 035:液(78〜80) 036:バス(76〜78) 038:読(77〜79) 039:せっかく(76〜78) 041:扇(78〜80) 052:サイト(51〜70) 059:税(51〜66) 062:万年(51〜63) 064:裕(51〜63) 068:煌(53〜66) 069:銅(51〜64) 071:粉(51〜65) 073:会場(51〜63) 075:短(51〜62) 078:ソース(51〜60) 083:憎(51〜59) 084:錦(51〜59) 085:化石(51〜57) 086:珠(51〜57) 087:当(51〜56) 088:炭(51〜56) 089:マーク(51〜56) 090:山(51〜56) 091:略(53〜59) 092:徴(51〜58) 093:わざわざ(52〜61) 094:腹(52〜59) 095:申(51〜57) 096:賢(51〜57) 097:騙(51〜57) 098:独(55〜57) 100:願(52〜56)