題詠100首・似非百人一首

     題詠100首・似非百人一首


001:呼(映子)
思い出を呼び出してみるあのころの畳のにおい暮れてゆく音
002:急(梅田啓子)
縁側にひなたぼっこのおばあちゃん 急須をみてたら会いたくなった
003:要(睡蓮。)
要点をまとめきれない幼さが言葉を増やす親子の会話
004:栄(JINRO)
蝉しぐれ栄えしときはうたかたの 泡と消えゆく風の残像
005:中心(キョースケ)
自転車を颯爽とこぐスカートが風に流れて春の中心
006:婦(蓮野 唯)
妊婦ではなくなった日が誕生日子供と同時に母も産まれる
007:度(鮎美)
我が親は我が姉の親でもありて二度とは帰るものかふるさと
008:ジャム(わんこ山田)
トーストの上なるジャムの輝きを許せず齧る朝だってある
009:異(紫苑)
たつきの手ふと休むれば異界への出口のやうなしろき満月
010:玉(kei)
二階からこぼれ手元に来る音符ザクザク一緒に刻む玉葱
011:怪(さくら♪)
虫かごと麦わら帽子セミの声 みんなが怪獣だったあの夏
012:おろか(泳二)
豹柄はおろかひまわり柄さえもいない商店街に佇む
013:刊(久野はすみ)
病室の夕餉は早く父はまた夕刊のなき地方紙を繰る
014:込(短歌はじめます、さざなみ)
飲み会は桜の下でケーキ付あの子も込でお願いします
015:衛(たえなかすず)
すこしだけさみしい 気象衛星は雨を探すの、ひまわりなのに
016:荒(金井二六時中)
若さゆえ鼻息荒く語った夢を下方修正しながら生きる
017:画面(さくら♪)
青空を光る画面に変える夏 虹の向こうで白が弾ける
018:救(美裕)
なにげない友の言葉に救われた気がして秋刀魚丁寧に喰う
019:靴(さわか)
底知れぬ靴の重みをいぶかしみ午前0時のタクシーに乗る
020:亜(只野ハル)
亜光速まで加速して振り返り確かめて見る赤方偏移
021:小(ほし)
和箪笥のうへの小人の人形の数がたまには合はなくなりぬ
022:砕(はぼき)
万華鏡いつか作ってみようかな砕けた夢のカケラ集めて
023:柱(志稲祐子)
二歳児は酔っ払いだね電柱にぶつぶつ言ったりするところなど
024:真(千原こはぎ)
ちっぽけな心の澱を溶かしてもいいかこんなに真っ青な空
025:さらさら(柚木ことは)
さらさらと星が流れていく町で今宵も誰かが願いをかける
026:湿(ドルチシマ・ミア・ヴィタ)
濃き蔭をもとめてすわるしきものに湿りをおびて芝生のあをき
027:ダウン(原田 町)
仕舞いかけのダウンまた着て花冷えの街に豆腐や長葱を買う
028:改(大島幸子)
かあさんが徹夜で編んだふるさとのあみものブック改稿二版
029:尺(有櫛由之)
尺蠖は伸びつつ吾は蹲みつつ五月 愁ひをうらがへしをり
030:物(影山光月)
「物欲はさらさらない」と言いながら君が見ているテレビショッピング
031:認(牧童)
認印ひとつ押すごと母の死が 戸籍の底で風化していく
032:昏(中村成志)
日輪は垂直に落ち 昏れなずむなどという語を 海が蔑む
033:逸(るいぼす)
常識を逸脱してる価値観のベクトルを5度傾けてみる
034:前(西藤定)
三月をうつむきがちな僕の上かけぬけていく桜前線
035:液(西中眞二郎)
液体はやがて静かに固まりて夏の和菓子の形をなしぬ
036:バス(大島幸子)
自宅より徒歩圏内のバス停に余白ばかりがある時刻表
037:療(只野ハル)
療養所木々が色付く高原の片隅に臥す音のない午後
038:読(尾崎弘子)
ふるさとの小径歩みし日もはるか月読の碑の由来思ひて
039:せっかく(千原こはぎ)
せっかくのお昼休みが消えてゆく沈黙だけが這う通話口
040:清(しま・しましま)
清潔なガラスのむかふ清潔なあかんぼみんな等間隔に
041:扇(美穂)
行列に並べば斜め後ろより扇子の風の届く真夏日
042:特(青山みのり)
特技とはいえないけれど可哀想なオンナのふりで散歩できます
043:旧(遥)
亡き母と弟嫁と旧姓が何故か同じでちょっと悔しい
044:らくだ(春原千花)
胸なんてただの脂肪よついてればいいのらくだの瘤と同じよ
045:売(海)
半額の札を貼られた焼売が規則正しく並ぶスーパー
046:貨(睡蓮。)
長々と貨物列車の数かぞえやっと踏切上がれば夕日
047;四国 (ドルチシマ・ミア・ヴィタ)
甲州街道四国屋の夜の更けゆけば三惚れうどんのたまごをくづす
048:負(ますだたつろう)
新年の抱負を書いた手帳ならどこかになくしてしまったばかり
049:尼(佐藤紀子
尼寺の写経の会に参加する白きあやめに雨の降る午後
050:答(諏訪淑美)
答案の裏に私の似顔絵を描いてた生徒親になったか
051:緯(諏訪淑美)
己が住む緯度をたどって地図の上日がな一日旅する雨の日
052:サイト(天野うずめ)
窓辺から雪の冷たさ感じつつエロサイト見た履歴を消そう
053:腐(RussianBlue)
昆布出汁であっさり炊いた湯豆腐の滋味染み渡る師走の夕げ
054:踵(春原千花)
君となら踵の低い靴でいい背伸びしないで新緑を行く
055:夫(コバライチ*キコ)
夕暮れの雷門は賑わひて人力車夫は声張り上げる
056:リボン(湯山昌樹)
耳にリボンつけたる猫をかき分けてその土地らしき土産をさがす
057:析(杜崎アオ)
かさかさと薄まるそらの分析をすれば一枚いちまいが秋
058:士(牧童)
友同士語り広がる風聞は 母とは別の女の葬儀
059:税(柊かいう)
内税の店にて惑ふこともありほかより安き人参を買ふ
060:孔雀(美穂)
いつ開くつもりか羽をたたみ込む孔雀の前のベンチは満席
061:宗(横雲)
孟宗を春の驟雨が濡らしゆき人偲ぶ身を風が吹き抜く
062:万年(志稲祐子)
滲むとき空の彼方を想うから万年筆は青色インク
063:丁(杜崎アオ)
手続きのひとつのような死であれば丁寧にパンケーキ焼く午後
064:裕(わんこ山田)
お財布に少し余裕がある時の私をわたしは覚えていたい
065:スロー(文乃)
鮮やかなフリースローでゴミ箱にシュートを決めて今日も快晴
066:缶(廣珍堂)
ガシャコンと缶コーヒーが落ちてきて君はいきなり夏服になる
067:府(ひじり純子)
日本の都道府県の白地図四色定理で塗り分けてみる
068:煌(のんちゃん)
煌々と闇夜を照らす赤提灯とうげの茶屋を丸く抜き取る
069:銅(横雲)
銅羅の音の響く御寺に春浅く経読む僧の遠ざかる影
070:本(御糸さち)
婚姻届と離婚届の記入見本 横浜太郎に何があったの
071:粉(中村成志)
両の手は肘まで白く 粉を練る少女の朝よ 酵母のにおい
072:諸(原田 町)
捨てたきもの諸々ありてもそのままに長梅雨の日を家に籠もれり
073:会場(コバライチ*キコ)
冬ざれの試験会場みな黙し共通一次受けし雪の日
074:唾(辺波悠詠)
幽霊が夜な夜な出ると眉唾な話の種になる我が実家
075:短(ひじり純子)
昼下がり短編小説読み終えて片頬だけの笑みを浮かべる
076:舎(土乃児)
斎宮に野の花一枝献ぜむと若き舎人は結界侵す
077:等(青山みのり)
寸分も狂わぬように等分に切りわけてみた今日の青空
078:ソース(湯山昌樹)
厚き肉をステーキソースで焼いていく姪の背中に自信が見える
079:筆(佐藤紀子
穂を揃へ小さき土筆が群生す風の涼しい夏のゲレンデ
080:標(小春まりか)
標的に定めてもなおトリガーが引けないでいる恋愛ゲーム
081:付(五十嵐きよみ)
もう何のために貼ったかわからない黄ばんだページの付箋をはがす
082:佳(はこべ)
顔佳花(かおよばな)うつくしき名を教え給う百三歳の師の訃報きく
083:憎(はぼき)
萌えキャラが言えば憎まれ口でさえツンデレとしてもてはやされる
084:錦(しま・しましま)
夕焼けが雲を錦に染め上げて 今日のこと全部うそだつたんだ
085:化石(雪)
秋ごとに記憶の地層を掘りかえしこわれぬように取り出す化石
086:珠(文乃)
数珠つなぎにちょこちょこ並ぶ一年生少し曲がった整列をする
087:当(西中眞二郎)
土地の香りする食堂は見当たらずミスタードーナツで昼飯を食う
088:炭(きむろみ)
燃えさしの炭で描けばどの山も太郎眠らす冬の尾根なり
089:マーク(映子)
初めてのワンポイントは高三の傘のマークの白いポロシャツ
090:山(五十嵐きよみ)
噴火まで半日 古代ポンペイを舞台にドラマは山場へ向かう
091:略(紫苑)
略奪の大地にありてなほつづく人のいのちの重さのちがひ
092:徴(はこべ)
自治会の会費徴収その都度によも山話あつめておりぬ
093:わざわざ(雪)
遠くまでわざわざ買いに行ったあと見つけてしまったお手頃価格
094:腹(海)
悩みには鈍感なのに腹の肉の増加はすぐに気がつく夫
095:申(遥)
いそいそと確定申告する君を思い描いて書類揃える
096:賢(みちくさ)
黒板に「畑ニイマス」と書き置いて消えた賢治を追いかける風
097:騙(天野うずめ)
騙されて気づくぬくもり君をまた好きになりたい暖かき午後
098:独(由子)
レンタ猫レンタ彼氏もあるらしい独り者にもニセのイヴの夜
099:聴(廣珍堂)
山ノ辺に神楽の音の立つを聴くいよよ霞のふかくなるころ
100;願(いまだなつき)
願わくば明日は上手く眠れるよう羊がうまく柵越えるよう