題詠100首選歌集・その1

 選歌集その1をお届けする。これまで10年間やって来たことだが、今年はフェイス・ブックということで随分勝手が違ってしまった。まず、フェイス・ブックには全く馴染みがなく、入ること自体にも抵抗があったし、この際取り止めにしようかとも思ったのだが、これまで10年続けて来たことを止めるのにも抵抗がある。そんなわけで、恐る恐る新しいスタイルに挑戦してみることにした。
 投稿自体は格別の問題はないのだが、選歌ということになるといろいろ問題がある。選歌のために、いったん私のドキュメントにコピーしているのだが、それがなかなかうまく行かない。フェイス・ブックのことを全く知らないせいもあるのかも知れないが、四苦八苦した挙句、小刻みにコピーすることにやっと成功し、この選歌集その1に辿りついたわけだ。(もっとうまい方法があるのかも知れないが・・・。)ついでに言えば、投稿者があるたびにメールで知らせが入って来る。これは相当煩わしいので、投稿関係は「迷惑メール」に分類して、原則として削除することにした。
 選歌の段階でも、今までと画面のスタイルが違うし、コピーにエネルギーを使ってしまうだけに、ついつい作品を見る集中力が欠けてしまいそうな不安がある。また、これまではトラック・バックの件数ということで全貌がつかめたのだが、今度はそうも行かないし、やり方は試行錯誤で変えて行くしかない。これまでと違う点が多いだけに、それやこれやで気に入らない点は多々あるのだが、「唯一の正解」があるという性格のものでもないし、新しいことに挑戦するのも老化防止に役立つかとも思い、これまで通り、選歌と終了後の百人一首を続けてみたいとは思っている。
 これまで見た限りでは、投稿者もこれまでとはかなり変わって来ているようだ。ブログを作る必要がないということで参加しやすくなったために新しい方が増えたのだろうが、同時にこれまでの参加者で取り止めた方も多いのではないかと思う。結果が吉と出るのか凶と出るのか、当然のことながらまだ見当が付かない。
 以上、「その1」に先立ってのご報告まで。


題詠100首選歌集・その1(2月1日〜8日)

001:地
(小張久美)後悔と決意はいつもうらおもて広げた生地に鋏を入れる
(新井蜜)スパゲッティふたりで食べて地下街を出ればあなたの街に雪降る
(muku)地に揺れる微かな春の足音を 確かに感じ空を見上げる
(kei)平和っていったいどういうことだろう人差し指で回す地球儀
兵站戦線)地の塩になれとばかりに説く人の背中を照らす日の暖かさ
(月丘 ナイル)月面から見上げる地球の青さより立春の空の果てしなき青
(清水 淳史)約束の地はここですか春ですか あらぶるつばきのくれないに染む
(田島 映子)長靴でジャンバーだったね母さんと買い出しに出た築地の師走
002:欠
(門哉 彗遥)箸で摘む父の欠片を骨壺に足から順に積み上げてゆく
(新井蜜)街に出て遊んだあとは欠けた月見上げて帰るひとりの部屋へ
(ひじり純子)欠けていく月のひとひら猫たちが舐めて朝には知らん振りする
(muku)日向ぼこ猫の欠伸に誘われて 窓を開けば春吹き抜ける
(五十嵐きよみ)対話する気持ちを欠いた宰相のどこまでも突き進む強弁
(Chie Miyoshi)親しさで欠伸は移りやすいもの夫の横顔見上げてみる午後
(湯山昌樹)半分に欠けたる月が富士山の頂に沈む明け方もある
(矢野 伎理子)わたくしに何ができると爪を噛むニュース見るたび酸欠の日々
(五十嵐 仁美) 夢を見ることさえ多分罪なのだ 月の欠片をパリンと齧る
003:超
(櫻井 真理子)わたつみの底ひのこゑのよを超えていま寄せかへす波音ばかり
(月丘 ナイル)超音波が我の内部を写し出すハロー腎臓ハロー肝臓
(五十嵐きよみ)二十一世紀は超過料金を払って生きている心地せり
005:移
(京子)おそらくはブックエンドのその本を移しただけの気分転換
(月波 与生)空いているきみのとなりにいきたくて瞬間移動すこしだけする
(はこべ)移転先地図をたよりに訪ねしは『夕顔』匂う垣の東屋
(木村 久昭)二十年(はたとせ)の移ろひ識らず降り立てば学生街に居酒屋はなく
(月丘 ナイル)楽しみのひとつもなくて灰色の雨が心に色移りする
006:及
(京子)沈黙もやさしさとなる距離がありあのフリージア開花に及ぶ
(木村 久昭)及ばぬと悟りし羽生は傍らの茶碗に白湯をわづかに注ぐ
007:厳
(ひじり純子)ペンを取り「厳寒の候」と書き始めそこで言葉に逃げられてゆく
(馬場浩通) 午後六時のエレベーターに人ひとり分のすき間を探す厳しさ
(木村 久昭)フェリーより降りしわれらをとり囲む巌島神社の鹿のひと群れ
(はこべ) 水に映え厳島神社ゆれており能『羽衣』を風にものせて
008:製
(ひじり純子)鳩居堂謹製とある便箋に向かいて少し姿勢を直す
(京子)ひざ上のパソコンもまた寡黙なる我が一日もアルミ製です
阿部定一郎)ラベルにはあなたについたささやかな嘘の製造日時を記す
009:たまたま
(ひじり純子)よくあることたまたまミスで縁ができウェディングとはマンガのような
(京子)たまたまという偶然に必然が見えた気もする渚の調べ
(月丘 ナイル)春が来るたまたま寄ったスーパーで君によく似たひとを見かけた
010:容
(京子)もうこれで四度目となる一夜漬けやはり気になる記憶容量
(Akari Moriyama)プライドと自己卑下 妙に混じり合うこの容れ物に宝を宿す
011:平
(ひじり純子)鬼平を真似て蕎麦屋で酒を呑む未だ叶わず還暦を過ぐ
(京子)描きかけの地図でやがては道になるはずの平行線だけ残る
013:伏
(京子)うららかな日差しに愁う春もあり開いたままの本を伏せます
014:タワー
(京子)名も知らぬ街の風景写真にて靄のベールのタワーに恋す
(Akari Moriyama)おそらくは一回きりの二人旅 祖父とスナップ東京タワー
015:盲
(ひじり純子)ご主人の座席の下に控えてる盲導犬の静かな瞳
016:察
(京子)開花には至らず紅い山茶花の白い表紙の観察日記
017:誤解
(ひじり純子) 美しき誤解重ねて連れ添えばそれでひとつの歴史ができる
(Kyoko Matsushima)ささやかな誤解にふっとほころんで季節外れの花になります
023:肘
(門哉 彗遥)肘掛けの左右どちらも使えずに肩をすぼめて一人映画館