題詠100首選歌集・その3

      選歌集・その3(2月11日〜19日)

007:厳
(いまだなつき)ベートーベンとりわけ厳しい顔をして音楽室のピアノを見てた
008:製
(松本直哉)その目にはいかなる空を夢むらむ翼ひろげし剥製の鳥
(木村 久昭)明日からフェリーは行かぬおほちちの拓きし北の製鉄の街
009:たまたま
(中村成志)うるおいが多めの化粧施せばたまたまの恋 なかなかの唇(くち)
011:平
(松本直哉)平等院出づれば氷雨ふりやまず世を宇治川のくれなゐの橋
012:卑
(松本直哉)卑金属婚式めでたや 春浅き人造湖上の錆色の月
013:伏
(新井 蜜)繭煮つつゑまふいもうと床に伏すわれに残されたるものありや
(muku)読みかけた本に顔伏す黒髪に 天使の輪光る春色の午後
014:タワー
(新井 蜜)獨活(うど)刈ればあをきにほひを タワーより京都盆地の春見はるかす
015:盲
(新井 蜜)コルドバの牝牛よ花は向日葵か盲目の恋に惑ひ乱れぬ
(Hoshi Takasawa)盲愛の対象となる生きものたち並ぶショップの小さき窓・窓
(松本直哉)盲ひても意気おとろへず口述のフーガながるる楽興の時
016::察
(木村美映)察せよとふ目配せありてシャンシャンと総会議事は流れてをりぬ
017:誤解
(はこべ)誤解解く親子の情の熱くして能『仲光』はのどこしの良き
(Hoshi Takasawa)自分には何かあるつて幸せな誤解をしてた頃 十七歳
018:荷
(はこべ)禅寺の池の荷葉がひとつ咲き早起きの報おつりがありぬ
阿部定一郎)荷役終え眠る重機のかたわらで土竜も同じ夢をみている
(田島映子)お荷物になりますがって母さんは断り切れない愛を持たせる
(Hoshi Takasawa)一生涯青春である荷風忌に銀座カフェーで待ち合はせせり
019幅:
(木村美映)幅員は二車線切りてこの夜も解除されざる大雪警報
020:含
(田島映子)湿り気に少し血の色含まれて病棟の夜はさらに更け行く
025:膨
(京子)二つ三つ白き蕾の膨らみてためらいがちに巡りくる春
027:どうして
(京子)どうしてもゆれてかなしい春があり逆光線のひとひらがある
028:脈
(京子)戯れに互いの脈に触れし日の袖の記憶が白くときめく
034:召
(京子)召しあがれ春を愛をと食卓でお浸しの菜の花がささやく
037:飽
(月丘 ナイル)美人なら3日で飽きると言うけれど君はいいねと言われて黙る
039:迎
(京子)迎えつつあるも終わりの冬となり夕日にそっと置手紙する
041:ものさし
(月丘 ナイル)勝ち組と呼ばれておりぬ内定の数を一つのものさしとして
043:麦
(月丘 ナイル)10分後ホットケーキになるはずの小麦粉はまだ夢をみている
047:軍
(月丘 ナイル)何色が咲くかわからぬチューリップ軍手ごしにも春が息づく
049:振
(月丘 ナイル)眠れないわたしを独りにしないため振り子時計もまだ起きている
051:旨
(ひじり純子)旨かったとヒゲをくるりと撫で上げて猫はまあるくなってしまった
054:暴
(月丘 ナイル)暴発する好きのかわりにチョコレート選ぶわたしは少しかわいい
060:菊
(ひじり純子)様々な種類の菊を等分に分けて二軒の墓に供えん
064:あんな
(ひじり純子)もし過去に戻れたならばどうしたかあんなこととかこんなこととか
065:均
(ひじり純子)百均で購いし物とは言えず夫が誉める器であれば
068:国歌
(ひじり純子)ゆっくりと皆立ち上がり口閉じたままの人もいて国歌斉唱