題詠100首選歌集(その5)

          選歌集・その5(2・25〜3・6)

002:欠
(みち。)欠けたなら欠けたかたちで生きていく わたしのために吹け南風
003::超
(井関広志)自らの暗い重みに耐えきれず内へと崩れゆく超新星
015:盲
(五十嵐きよみ)懐かしい昭和のドラマの主題歌として思い出す「恋は盲目」
019:幅
(櫻井真理子)はるかなる谷の匂ひす。身の幅にあまれるシャツのふふみたる風
(清水 淳史)揺れ動く心の幅に困惑すこれが男の更年期なのか
(五十嵐きよみ)以前なら眉をひそめた考えが幅を利かせて昭和も卒寿
023:肘
(八慧)語りたいことはあるのに見つめ合い片肘ついて煙草吸ってる
024:田舎
(八慧)啜り合う田舎汁粉は身を焦がす花見の茶屋に夕焼けを呼ぶ
025:膨
(小春まりか)膨らんだほっぺをつつくと少しだけめり込んでから空気が抜けた
(八慧)老いる身も花咲く春の日の夢を膨らませつつ一日(ひとひ)千秋
026: 向
(松本直哉)巻向の山の辺はるか 金色に稲穂は熟れてまどろむ真昼
029:公
(影山光月)公開はしないつもりの恋だった斜め四十五度が眩しい
031:防
(はこべ)堤防の土手に並びて見る夕陽能『盛久』の見し陽はいかに
032:村
(はこべ)舞いおるは松風村雨姉妹の恋行平の影海に探すや
033:イスラム
(新井蜜)鶉割きてその花いろのヒジャブ被るイスラムの子はおほき眼瞠る
(松本直哉)顫音のギターラ幽か イスラムの栄華燦たるアルハンブラ
035: 貰
(松本直哉)顔と顔溶けあふムンク「接吻」の葉書貰ひぬ髪ながき子に
041:ものさし
(田島映子)背中からときどき浮いて跳ねてたねランドセル着た竹のものさし
042:臨
(田島映子)ましてゆく不安はいつかかき消さる臨月の腹君がさすれば
059:ケース
(京子)春の日の秘密はすべて風色のクリアケースに入れておきます
073:なるほど
(京子)あゝ遠くなればなるほど近くなる切なさありて夕陽に染むる
075:肝
(京子)肝心なことはいつでも伏せてあり落ち葉の下に思い出を飼う
081:臍
(京子)一枚の夏の終わりの忘れもの ビキニの臍と水色の空
082:棺
(京子)別れ花ほのかに香り棺なる船にてハルは旅立ちにけり
084:剃
(京子)風呂場にも春は訪れハミングと色とりどりのT字剃刀
089:潮
(月丘 ナイル)潮騒のような寝息を聞きながら今日の終わりの夢に潜ろう
091:盤
(ひじり純子)春近い女性専用車両では岩盤浴の話沸き立つ
095:生涯
(月丘 ナイル)生涯の在り方までも決められて虚ろに笑うリカちゃん人形
(ひじり純子)生涯をかけてなし得たものも無く中国産の干し芋食べる
097:停
(ひじり純子)雨の日は大きな傘を用意してトトロの影をバス停で待つ