高浜原発仮処分への疑問

     高浜原発仮処分への疑問

 
 先般、大津地裁により、高浜原発に関し運転差し止めの仮処分が決定された。原発の安全性については、さまざまな意見があり得るところではあろう。しかし、仮処分という形で運転を中止させることに馴染むものなのかどうかには疑問が残る。仮処分というのは、本来の訴訟まで待っていられない緊急性に基づく暫定措置という性格が強いものだと思う。例えば、建物が壊された後で壊すことを禁止する判決が出ても無意味であり、とりあえず壊すことを禁止しておくといった手法が、仮処分の本来の趣旨だと思う。我が国の司法が三審制を布いているにもかかわらず、地裁の決定だけで強制力を持つという例外的な制度が設けられているのも、その緊急性にウエイトを置いているからだと思う。
 本件の場合、原子力規制委員会という公的機関で許可を出された施設であり、一応の安全性と合法性は推定されるものだし、本来の訴訟を待つことなく、運転中止という新たな措置を求める仮処分という形でふりだしに戻すことは、制度の性格に馴染まないものなのではないか。また、その理由を見ても、安全性に不安があるという漠然としたものであり、仮処分の緊急性の説明としては説得力を欠くものだと思う。
 また、本決定が、原子炉の所在地ではない大津地裁でなされたことにも、疑問が残る。本件の申立て人は、多分滋賀県在住の人だと思うが、原発の30キロ圏内に居住する滋賀県民はゼロとのことであり、大津地裁に仮処分を求めるほどの緊急性の高い案件と言えるのかどうかには、基本的な疑問がある。極論をすれば、多少なりとも不安を抱く人がいれば、その人はどの地裁にでも仮処分を求めることができ、また、その地裁は裁判官の判断次第では、仮処分の決定をすることにより、運転を差し止めることができるということにもなり兼ねない。
 最後の砦として司法に期待することは大きいし、また、司法もその期待に応えるべきであることは当然だが、本件の場合、制度の趣旨を逸脱した司法の勇み足であり、司法の権威をかえって損なうものになるのではないかという疑問を抱かざるを得ない。