題詠100首選歌集(その8)

         選歌集・その8(3・21〜3・31)

003:超
(miki)ひとつだけ超能力が今欲しいガンを根絶させる力を
006:及
(みち。)追及もされないままに許されてわたしの罪が行き場を失くす
008:製
(Mamiko Kuwahara)既製品着ているマネキン人形も夜明けに涙を流しているよ
011:平
(湯山昌樹)平坦な道などなしと言い聞かせ教師生活三十年目
014:タワー
(井関広志)上からの逆光のなき夜のタワーに下から響く光の音符
(湯山昌樹)「タワー」でも古い語感のする時代 「札幌テレビ塔」へと上る
022:御
橋本和子)街道の「御宿」傾き雀いる二階の手すりに揺れる手ぬぐい
023:肘
(沼谷香澄)あたたかな場所に寄り来て仕舞われたねこの肘から夜がはじまる
027:どうして
(五十嵐きよみ)戒めにむしろ心は揺れまどうしてはいけないことほどしたい
032:村
(由子)嬉々としてネコらに振りまわされている猫馬鹿ブログ村を覗きぬ
037:飽
(櫻井真理子)いはれなく飽きゆくものと知りつつもこよひ受話器のこゑの愛(かな)しき
040:咳
(櫻井真理子)目に染みる南天のいろ咳(しはぶ)きのひとつをいとふ君おもひけり
042:臨
(櫻井真理子)ベランダゆ海を臨まぬ部屋にゐてソーダの泡のわづかに苦し
043:麦
(櫻井真理子)「愛の園」を教へ給ひしひとありき復活の日に麦の穂の揺る
(muku)縁に掛け指先で食べた麦焦がし 幼き友の笑顔が浮かぶ
045:フィギュア
(Hoshi Takasawa)母を連れてフィギュアスケート観たること孝行のうちのひとつとなりぬ
047:軍
(はこべ)花軍(はないくさ)の扇もちたる春の舞い能『杜若』からころも色
049:振
(はこべ)振り返る仕草美し能『海女』の海中の舞い追っ手を伝う
052:せんべい
(はこべ)公園で鹿せんべいを捕られた日薪御能『春日龍神
053:波
(はこべ)夕波の寄する汀には相生の松の精おり能『高砂』は
056:蓄
(新井蜜)あざらけし童貞の冬、蓄へし髭茫々に枯れゐたりけり
070: 凝
(松本直哉)透明度とりもどしつつオリーブの油の凝固解けて春立つ
080: 大根
(松本直哉)吐く息の白き厨の歳晩に大根を炊き蒟蒻を炊く