題詠100首選歌集・その11

         選歌集・その11(6・11〜7・7)

001:地
佐藤紀子)寒さややゆるびて今日は杉の木の根方に黒く地面が見える
(廣珍堂)やまとにも緑の地平線がありトカゲは陽射し受けて眠りぬ
003:超
(藻上旅人)振り向けば超えるべき日はあったのに昨日と同じ明日を過ごす
005:移
佐藤紀子)子育てのころの楽しみオルゴール鳴らして止まる移動図書館
(風花)黒揚羽しばし休みて空に発ち季節は移る梅雨から夏へ
006:及
(風花)だんだんと無口になりて見る車窓たびの終わりに及ばぬ願い
007:厳
(廣珍堂)立つ僧が高く唱える華厳経滝の飛沫は真白なるべし
008:製
(廣珍堂)構想がまとまらぬまま図面置く製図板には黙する木目
009:たまたま
(廣珍堂)元カノにたまたま遭った河原町ゲーセンだったビルはもうない
011:平
佐藤紀子)平凡を嫌ふ夫との折り合ひに少し疲れて夕月を見る
012:卑
佐藤紀子)卑下もせず自慢もせずに淡々と君は受賞の喜びを言ふ
013:伏
佐藤紀子)盃を伏せて今夜はこれまでと憶良のやうに宴席を立つ
014:タワー
(風花) この町に不似合いなほどそびえ立つタワーマンションが消した富士山
016:察
(風花)沙羅の花垂直に落つこの道で察したくない夏の終わりを
018: 荷
(風花)荷は持たず笛吹くきみの後を追う私はいつもハメルンの子ども
020:含
(睡蓮。)くちなしの香り含んだ雨粒がささやくようにまつ毛をぬらす
032:村
(kei)爽やかな光の中で読む詩集村にひとりの女先生
036:味噌
(kei)夕暮れの声が聞こえたから今日は酢味噌和えです藍浴衣です
038:宇
橋本和子)さざ波を足に纏ひて振り向けば驟雨に浮かぶ仏堂一宇
041:ものさし
(kei)飴色になったものさし三代にわたる時代を乗り越えて来し
042:臨
橋本和子)喪の家は臨時休業讃岐うどん残る幟はちらちら赤し
047:軍
(有櫛由之)敗軍の将饒舌に語りたりゆふべ夢見しゆふすげの花
058:囚
(五十嵐きよみ)詠みあぐね知識をひとつ増やしおり囚人服が横縞なわけ
080:大根
(中村成志)まあなんとか済んでふろふき大根を二つ四つに割る箸先よ
081:臍
(中村成志)まあ一杯 ぶつ切り鮹を臍と呼ぶ詩人を偲ぶ葉月新月
089:潮
(はこべ)『海女』の「天みつ月も満ち潮の」こえすきとおる地謡のよき
沼谷香澄)食欲は潮の満ち干のごとくありねこ水ばかり飲んで三日目
092:非
(はこべ)楽しみは非日常のとき過ごす能の舞台の三間四方
097:停
(はこべ)停まるは優曇華の花においくる能『百万』に思い重ねる