題詠100首選歌集・その12

         選歌集・その12(7・8〜8・14)

004:相当
(叶)目を伏せてぼそりと語る少年のそれ相当の訳ある瞳
005:移
鬼無里)移項して答えを求むことなんて社会に出てからしたことがない
007:厳
(叶)岩穿つ厳松(げんしょう)の根の険しさを夏空だけが見守りてゐる
009:たまたま
(遠音)たまたまと君は呟き落ちてゐるボールを拾ふ目を合はさずに
010:容
(みち。)許容量はあとどのくらい混濁のわたしの海で溺れるわたし
015:盲
(廣珍堂)足元に盲導犬はじつとして新快速はまもなく京都
019:幅
鬼無里)振幅がずれて会話のない夜は月がふたりを共鳴させる
021:御
(風花)斜度30霊場御岳に杉並び風ふきわたる山のはつ夏
023:肘
(風花)我はもう気ままを願う齢なり肘掛け窓にひかりと遊ぶ
024:田舎
(Mamiko Kuwahara)都会にはない星空を見つめつつ田舎言葉に酔う盆の夜
(廣珍堂)テエブルに田舎の団子並びゐて午後の列車で母は帰りぬ
025: 膨
(風花)海辺よりきたる風受けパーカーの背(せな)膨らませ見ていた夕陽
026:向
(風花)向かいあい近況一気に語りあう早々からのジョッキを置いて
(廣珍堂)避難路の方向示す照明が黄色にくすむ病院待合
027:どうして
(風花)どうしてと問えば答えはどうしてもならばなぜかと問えず下向く
(いまだなつき)どうしても会っておきたい人がいて少しくずれていた角砂糖
(中西なおみ)どうしても叶えたい事あるらしく蝉みな胸に手を合わせ逝く
032:村
(風花)老多き寂しき村を旅すれば赤蕎麦の花咲きて明るき
034:召
(湯山昌樹)原宿のお召し列車のホームには主なく花のみ咲き乱れたり
037:飽
(風花)きみの漕ぐカチカチ山の泥舟に飽きず飛び乗るわたしはうさぎ
040:咳
(風花)咳ひとつ生きてる重さをおもい知る音を躊躇う病棟の夜に
046:才
(風花)いつのまに身についたのか聞き流す才ばかり長け夕焼けのなか
052:せんべい
阿部定一郎)せんべいを割る片手間でわたしたち別ればなしも笑ってできた
053:波
阿部定一郎)波がしら崩れて空になることを諦めてまた波へと戻る
058:囚
阿部定一郎)「囚われの王子」も実はいるのだが姫が助けに来たことはない
063:律
(kei)規律などあってないもの夕暮れの実験室の三角フラスコ
067:挫
(五十嵐きよみ)政権はあからさまなり今日もまた強きを助け弱きを挫く
069:枕
(五十嵐きよみ)枕辺に置いて寝しなに少しずつ憲法を読む 噛みしめながら
070:凝
(五十嵐きよみ)古代史に凝ったり伝記にはまったりクセジュ文庫を集めたことも
080:大根
(Hoshi Takasawa)ペルセウス座流星群の流れる夜切り干し大根に味しみわたる
083:笠
(中村成志)気になるはピラカンサスの散り具合涅槃の像に笠をかぶせる