題詠100首選歌集(その16)

           選歌集・その16(10・17〜11・12)
005:移
(青山みのり)ポケモンGOで突飛な場所へ移動してあなたのいない世界を見たい
(高井志野)属性は変わってないが移り気な言葉のタグを引っ張ってみる
013:伏
(青山みのり)重たげなとばりの降りて光らないものの潜伏する街の夜
016:察
(青山みのり)察しよく西へ集まる小魚をつぎつぎ焼いて沈む落陽
027:どうして
(小張 久美)どうしても数えられないものばかり虹と天使とあなたの嘘と
028:脈
(牧童)モニターの脈を眺めて臨終をただ待つだけの錫色(すずいろ)の朝
030:失恋
(牧童)失恋のたびに心も色を変え納戸色(なんどいろ)した大人の風情
(青山みのり)脳内に書き替えられて失恋はみかんの房の一粒となる
032:村
(山本貴幸)村さ来を出でて星月夜のほとり厭はるることに慣れてしまへり
033:イスラム
(小張 久美)憧れと嫌悪と夢のモザイクを埋めれば浮かぶイスラム模様
(山本貴幸)イスラムのニュース読み上げらるる間の遠雷はつか迫り来たれり
036:味噌
(牧童)味さめた味噌汁すすり何もない鴨頭草(つきくさ)色の朝が始まる
(青山みのり)あの場面でなにが正解だったのか味噌ひとさじを溶かす束の間
039:迎
(Mamiko Kuwahara)思い出がこぼれ落ちてく夜だから流星と月が迎えに来たね
046:才
(牧童)秋寒に才が無くとも恋唄をつくりたくなる柿色(かきいろ)の雨
049:振
(ひなたひとみ)針先はゆっくり振れて封筒に十円切手を追加して貼る
061:版
(睡蓮。)曇天が落ちて来るよな古本屋かの絶版の一冊光る
(ひなたひとみ)ガリ版で文集作りに精出した昭和は今もインクの匂い
064:あんな
(睡蓮。)背中からそっと抱かれた夏以来あんなに青い空はなかった
065:均
阿部定一郎)おずおずと平均台の上に立つ少女はすこし天使に似ている
070:凝
阿部定一郎)友だったはずのあなたのくすりゆび凝ったつくりの指輪が鎧う
橋本和子)木で彫られし古き仏はひびだらけ凝った心が溶けて流れる
071:尻
(ひなたひとみ)お手本のヨガのポーズを真似すればお尻の奥が悲鳴をあげる
072:還
(風花)還暦を過ぎた頃から派手となる男の靴を月がてらせり
074:弦
阿部定一郎)無造作に開放弦を掻き鳴らすように片手で愛してあげる
075:肝
(睡蓮。)肝心な時あわてない自信無く日々考える避難想定
077:フリー
(ひなたひとみ)フリースの袖口あげて蜜柑むく母の背中は去年より丸い
078:旗
橋本和子)着けばすぐ洗う白衣は遍路旗洗面台にシャボン泡立て
080:大根
(風花)冬大根ずらり干された海岸に泣くごとき風吹けば年の瀬
橋本和子)一椀はまびき大根胡麻あえて宿の裏庭月がこぼれる
082:棺
(ひなたひとみ)ハロウィンを終えて棺に戻りゆく地下街にいるゾンビ集団
083:笠
橋本和子)菅笠も金剛杖も持たずして白衣ひとつで空と海行く
(ひなたひとみ)花笠を被るおみなの紅赤く街が賑わう山形の夏
087:監
阿部定一郎)昼間でも油断はならぬ太陽に隠れて月は監視している
088:宿
(ひなたひとみ)宿題の絵日記うめるイベントをこなせぬままに夏を終えたり
091:盤
(Hoshi Takasawa)ウディ・アレンみたいな眉にさせていく会話の序盤でつまづいてゐる
(kei)新しい恋の予感もないままに二人の指がすべる鍵盤
092:非
(廣珍堂)廃屋は非常口だけ開いてをり土の匂ひと交はるところ
097:停
(廣珍堂)ローカルの駅に10分停車するディーゼル列車は行商を待つ
099:品
(廣珍堂)苦しみを九品の底にそつと置き今日の暑さに咲き初むる蓮
100:扉
橋本和子)悲の扉いくつも押してここに居る秋の日ざしの溢れるところ