題詠100首選歌集(その17)

選歌集・その17(11・12〜11・25)


017:誤解
(小川窓子)誤解から君と出会った夏だったネコの写真をたくさん撮った
020:含
(村田馨)雨雲が冬を含んでひろがりぬ氷川神社は正月支度
028:脈
(村田馨)水脈引きて船は進みぬ竹生島神社ははるか霧に沈みて
030:失恋
(高井志野)もてあます失恋の角が落ちるころ杏仁豆腐にのせるクコの実
035:貰
(村田馨)爺ちゃんに買って貰ったあんずあめ熊野神社の小さな露店
041:ものさし
(山本貴幸)なぞられもせぬものさしの短辺の気持ちのやうでその手をはらふ
(小川窓子)ふでばこでカタカタ言ってたものさしの目盛が消えて秋風過ぎる
047:軍
(小川窓子)たおやかな母と姉妹の女性軍せめてと父はオス犬を飼う
053:波
(青山みのり)波長のあう人とくつろぐ公園で銀杏が僕を秋にしてゆく
057:狼
(青山みのり)昨日より月の明るい野にふたり夏の匂いに狼狽えている
058:囚
(青山みのり)囚われの身となる前にたんぽぽの綿毛よ悔いのないように飛べ
059:ケース
(牧童)漆黒(しっこく)の下着一枚残された母の形見のケースを閉じる
(山本貴幸)iPhoneのケースに猫のシルエットたづさへ気ままな旅に出ようか
065:均
(青山みのり)均等に配分されぬしあわせを見透かすごとく月冴え渡る
069:枕
(牧童)栗色(くりいろ)の冬カーテンに付け替える枕並べて今夜もひとり
070:凝
(中西なおみ)かみさまはきっと凝り性そらの色だけでこんなに色を使って
071:尻
(牧童)見上げれば露草色の空となり口説き文句も尻切れ蜻蛉
072:還
(青山みのり)飛行機の残した白いひとすじの雲に還元されてゆく秋
074:弦
(中西なおみ)風のゆれ受け止めるよう弦をはり蜘蛛つくり出す水面の波紋
(青山みのり)調弦のととのわぬまま鳴るすすき君に痛みは知られたくない
077:フリー
(牧童)苔色(こけいろ)の老後の日々は何もなくストレスフリーがストレスになる
079:釈
(青山みのり)解釈も言葉も声も捨てていい世界のすみからすみまでさくら
(牧童)歳月で希釈されない哀しみを赤朽葉(あかくちば)色の雨にとかして
080:大根
(牧童)二人行く三浦大根干す浜の海松茶(みるちゃ)の海と空とが重く
082:棺
(青山みのり)一人また一人去りゆきこの家はわたしひとりを納める棺
086:坊
(睡蓮。)雨降れとてるてる坊主を逆さ吊り買ったばかりの長靴出して
087:監
(由子)タイマーに監視をさせて真夜茹でるパスタよ負けてなどいられない
088:宿
(青山みのり)長閑としか言いようのないこの街で宿根草と暮らしています
(由子)「お神輿は上から見るな」女将から教わるあの秋外房の宿
094:操
阿部定一郎)ゆうがたの人恋しさにつけこんで節操もなく影のびてゆく
096:樽
(風花)たわわなる柿の実みれば樽柿の仕上がり待ちし遠き日思う
097:停
(ひなたひとみ)バス停を見つけて何故かホッとする紅葉始まる滋賀の山々
(藤野恵子)進まぬと決めた私でよかったと 一旦停止で見えた青空
098 覆
(muku)一面に落ち葉が覆う錦絵に 二人の影を描き込む秋
099:品
(Hoshi Takasawa)年賀状の当選品の干支切手つかはぬままに年が暮れゆく
100:扉
(ひなたひとみ)すれ違う回転扉に残されたコロンの香り今も忘れず