題詠100首選歌集(その18)

         選歌集・その18(11・25〜11・29)

002:欠
(久野はすみ)全集の重き一冊取り出せば欠けたる場所にひかりはそそぐ
010:容
(久野はすみ)シャンプーを詰め替え容器に流し込む あなたの怒りはあなたのものだ
011:平
(久野はすみ)アトリエに画布は平らに置かれけり描かれし女も解き放たれて
016:察
(久野はすみ)ひんやりとプラスチックの手触りの母の診察券を差し出す
017:誤解
(久野はすみ)きみの手をなつかしむ夜うつくしい誤解のように雪ふりつもる
019:幅
(久野はすみ)舟ならば乗らないだろう川沿いを肩幅狭き男と歩く
020:含
(久野はすみ)ほんとうにそれでいいのね夕闇に含み笑いのような三日月
025:膨
(久野はすみ)じっくりと水を吸わせて膨らます干し椎茸も今日の侮蔑も
026:向
(久野はすみ)そのひとの向日性を語りつつだけど曲がっている花の茎
030:失恋
(久野はすみ)この春も失恋したる黒猫が恋などなかったふりして眠る
032:村
(久野はすみ)晩秋(おそあき)のいろどりとして鞄には北村薫を一冊入れる
033:イスラム
(久野はすみ)信仰をもたぬ弱さを肯えどイスラム暦の月のまぶしさ
036:味噌
(久野はすみ)海原をわたるつもりの休日に鯖の味噌煮を温めなおす
037:飽
(久野はすみ)ねむってもねむってもまだ飽き足らず夢野久作抱えてねむる
041:ものさし
(久野はすみ)となりから黙ってさっとものさしを差し出すような女ともだち
043:麦
(久野はすみ)助手席にあなたを乗せてゆく旅の麦の穂麦の穂ひかる麦の穂
052:せんべい
(村田馨)香ばしきせんべいを手に散歩する草加神社のおだやかな昼
054:暴
(村田馨)多度大社に暴れ嘶(いなな)くものたちよ上げ馬神事はいま始まりぬ
058:囚
(村田馨)囚われの身の鬱屈を思い描く松陰神社に細き雨降る
061:版
(村田馨)ガリ版の学級新聞見せあえば九十九神社に夕日がしずむ
074:弦
(清水 淳史)淋しさが指の先まで伝わってギターの弦を弾きたくなる
082:棺
(山本貴幸)足早にひとら行きかふ乗り換への駅構内は棺のかたち
083:笠
(山本貴幸)銭湯に座高あるひと笠雲のやうにシャンプー泡立ててをり
084:剃
(牧童)露天風呂柑子色(こうじいろ)へと変わる夕 白毛まじりの無精髭剃る
087:監
(牧童)監獄のように閉ざした素鼠(すねずみ)の曇り空でも二人は自由
091:盤
(山本貴幸)本調子にあらざるけふは楽器屋の鍵盤ひとつ鳴らして帰る
(青山みのり)職場では見せない顔を知ってから西館二階を指す羅針盤
096:樽
(青山みのり)樽に乗るドンキーコングのあやうさに降り出しそうな曇天の午後