題詠100首選歌集(その19=終)

         選歌集・その19(11・29〜12・1)

031:防
(宮まり)防ごうと思えば防げた拒もうと思えば拒めた恋の始まり
038:宇
(宮まり)目を開けて最初に見た人好きになるそういう定めの宇宙もあるさ
040:咳
(土乃児)遍路宿「同行二人」の笠を脱ぎ灯を消して咳をするひとり
044:欺
(久野はすみ)ゆらゆらとゆれる木の葉に擬態する魚のようにきみを欺く
046:才
(久野はすみ)落書きの画才のなさを笑いあう放課後というサンクチュアリ
(宮まり)何歳と簡単に訊くアンケート18才と理想を書いた
048:事情
(土乃児)其々の事情は聞かず同宿の遍路は明日の道を語らう
052:せんべい
(久野はすみ)きみの声が通過列車のようだった南部せんべいぱりんと割りぬ
054:暴
(久野はすみ)冬ばらは風に暴れていたりけり乳白色の花を散らして
(宮まり)穏やかな色を選ぼう暴れたい心を隠すセーター編もう
058:囚
(久野はすみ)原っぱに桑の木いっぽん立っていた囚われ人のようにしずかに
060:菊
(宮まり)命名に菊子にしようか迷ったと後で聞かされ菊好きになる
061:版
(宮まり)書店さんや版元さんとさんを付け言う癖の人を恋しと思う
062:歴
(久野はすみ)一時間のちにはきみがひらくはず検索履歴を残して閉じる
067:挫
(久野はすみ)出奔の予定はいつも頓挫してうつらうつらと眠る家猫
078:旗
(久野はすみ)どこまでも自分に甘いわたくしの旗色がやや悪くなる夜
079:釈
(久野はすみ)すこしだけのどにからめるカルピスの五倍希釈の懐かしき夏
080:大根
(土乃児)雪被り歩いて着いた宿坊の風呂吹き大根柚子味噌美味し
082:棺
(宮まり)棺桶へ入れやすいよう縮んだと身体検査で笑ってた人
086:坊
(土乃児)素泊りの宿坊一人酒を買いウツボのたたきで除夜の鐘聞く
088:宿
(土乃児)五年ぶり懐かしき宿訪えば元気な男児が一人増えたり
091:盤
(土乃児)新年の法会の報せ双盤の音殷々と本堂に響く
096:樽
(土乃児)山里の樽で作った遍路小屋味噌の香りに包まれ眠る
099:品
(久野はすみ)ここからはそれぞれの線たそがれの品川駅で乗り換えてゆく
100:扉
(宮まり)もうそろそろ扉の隙間に朝日来るそう思いしが雨の音する