題詠100首選歌集(その30)

          選歌集・その30


005:姿(188〜212)
(史緒)じゃあまたね やさしい嘘のさよならに後ろ姿で気づく改札
(宮田ふゆこ)いつもより姿勢ただして仰ぎ見た桜が北に届いて五月
(ワンコ山田) 着心地のいい子でいるか姿見の中の胸から透けてゆく初夏
(こすぎ)姿勢よくあらねばならぬと思い込み痺れた足に諭されている
008:下手(180〜205)
(史緒) いつかまた行こうと君の下手な嘘 日付はいつも空白のまま
(野坂らいち) 下手くそな嘘さえ吐けずふたりしていったい何処へ向かっているの?
(みち。)生きるのが下手なんじゃない幸せなふりをするのが上手くないだけ
(詩月めぐ)片づけが下手なわたしの心にはあなたがいまも居座っている
(希) ひとりきり下手な料理を食べ終えて定刻通りさみしくなった
011:ゲーム(153〜177)
(ぱぴこ) ゲームより地味でシビアな選択肢ひとつしかない命で進む
(久哲) 誠実が嘘かも知れぬ真昼間はゲームの中にまで猿がいる
017:失(129〜153)
(揚巻)影もまた光のこども 失えばいつか石碑をみた丘に風
(みこと)心ごと空っぽにして透明な失うものだけ指で数える
(花夢) 失ったひとばかりいるこの国のルサンチマンって言葉が黴びる
022:でたらめ(104〜129)
(佐田やよい) でたらめな階段上り下っても元の時間に戻ってこない
(村木美月)欲しいものねだれない子はでたらめに指先傷つけ野あざみを摘む
(史緒) でたらめに君が並べた嘘にある寂しさだけは真実だった
024:謝(103〜127)
(伊倉ほたる) 謝りのメールは封印されたままスクロールばかり繰り返す指
(紗都子)謝罪する言葉が胸にしずむときわだかまりの角すこしとろける
(ぽたぽん) 目の前で謝る人をうっすらとドラマを見ているみたいに見ている
031:電(76〜100)
(五十嵐きよみ) 黙り込み切るに切れない真夜中の電話に遠くサイレンの音
(史緒)終電は酔客たちを乗せたまま日付変更線を越えたる
033:奇跡(77〜101)
(雑食)奇跡には「ぐうぜん」というかなを振るようなぼくですどうぞよろしく
(五十嵐きよみ) 新聞が奇跡を報じる背景に助からなかったあまたの命
(小夜こなた)十万年のちの地球が碧ければ奇跡のような未来と想う
058:帆(26〜50)
(ほたる) 揺れ惑うわたしを捕らえ帆柱を立てて揺るがぬ君を恋する
(梅田啓子)海面に触れむばかりに反り出せば風はらむ帆と太陽ありき
059:騒(26〜50)
(葵の助)多忙さと騒々しさの隙に子は天使の顔見せ母を操る
(猫丘ひこ乃) 遠足の子どもの列のつなぎ目に挟まる吾を包む騒めき

*[短歌]