題詠2012選歌集(その14)

選歌集・その14


003:散(131〜155)
(黒崎聡美) 散薬を朝・夕に服む冬なのかもう春なのかあいまいな日に
佐藤紀子) 街灯に照らしだされて真夜中の氷雨は白き光を散らす
(なゆら)「きのうよりひらいているよ」と指さして母に教える散歩の途中
(さくら♪)イタズラな風に舞い散る花びらが追いかけてくる午後の校庭
004:果(117〜141)
ひぐらしひなつ) 物語はじめるように暗がりにゆびを汚して分けあう果実
(村木美月)切り取った果実のような月が今日 不敵に笑う唇になる
佐藤紀子) 疲れ果て眠りこみたるをさな児にやさしくあれよ春の夜の夢
(廣田) 8月の嘘と憂鬱そして雨 砕けた果実を投げ棄てる海
006:時代(104〜128)
(北爪沙苗) 大空を白紙に見立てまたいつか時代を隔て輪廻を待とう
(如月綾) あんな奴好きな時代もあったなと早く笑えるようになりたい
(白亜)奪はれし子ども時代のふる傷を包むかのごと 陽だまりのうた
(ケンイチ)潮騒のやはらぎを見る束の間に時代はそつとさらはれてゆく
(希) 愛読の時代小説手放せず夜がしんしん古びて更ける
(本間紫織)輝きは時代と共に消え失せて静観している東京タワー
(三沢左右) 君と見しキネマのゲイリー・クーパーの若き微笑を時代と呼ばん
(田丸まひる) こなぐすり飲むときだけは少年の時代の顔を見せるのですね
(黒崎聡美)わたしたちの時代は と言う人の向く東の空はすこやかに澄む
(真桜)幾つもの時代を超えてそこにいる梅小路蒸気機関車
014:偉(78〜102)
(梅田啓子)偉丈夫でなかりし父の肋骨のくぼみにゆびを入れたき夕べ
(矢野理々座)阿波踊り「偉い奴っちゃ」はどこ行った?同じ「阿呆」なら踊らにゃ損々
015:図書(76〜100)
(原田 町) 丸善へ委託してからわが街の図書館員の愛想良きとか
(ケンイチ) 図書室のきみの背中に悠々とひかりを孕むたそがれの雲
(小夜こなた)『おかあさんだいきらい』とう課題図書えらびし夏のページも褪せぬ
(太田槙子) 夕暮れの宝探しは四階の高校校舎隅の図書室
059:貝(1〜25)
(シュンイチ)数学の授業中には貝となる 素数のようなきみ に会いたい
(ほたる)砂浜の君の素足の桜貝 僕は危うい少年だった
(みずき)貝殻のくくむ潮騒耳に当て児らは知りたる夏の終はるを
(流川透明)太陽と波打ち際ではしゃぐから桜貝など透かして見てる
062:軸(1〜25)
(紫苑)ふたしかな思ひの軸は傾ぎゆきバレエ人形しづもりて止(や)む
(こはぎ) 指と指その接点を軸として廻るふたりの縮まらぬ距離
063:久しぶり(1〜25)
(夏実麦太朗) 東京は久しぶりでもないけれどビルの高さを見あげてしまう
(ほたる)一日も一年も同じ「久しぶり」君はわたしの時空を超える
(みずき)遠い恋 久しぶりねと見つめあふ二人の夏はいつか来た海
070:芸(1〜25)
(紫苑)曲芸の美(は)しうつしよの混沌に一点うがつ錘の立ちたる
(みずき) 芸の道、はた美意識の中に置くバレエ‐シューズの蒼きゆふぐれ
松木秀)げいと打つと最初にゲイと出てきたるわがパソコンの辞書に芸あり
074:無精(1〜25)
(平和也) 無精髭かくすマスクを手放せぬ人はひとえに我のみならず
(シュンイチ)筆不精なんてことばは死語になりメール無精な人を待つ夜
(蓮野 唯) 出無精になってみようか雨の日に貴方をずっと抱いていようか
(紫苑) 無精ひげ疎らなるまま午後ひと日憩へる君の喉仏見つ
松木秀)無精髭さえ父親にそっくりでCMに出るレノンの息子