題詠百首選歌集・その11

 例によって選歌集。前置きや釈明は省略します。


003:手紙(143〜179)
 (にしまき) 諦めと希望が垣間見えている積み重なった手紙の隙間
  (飛鳥川いるか)お別れの手紙書きます「あっぷる市」になるはずだった雪の町から
 (つきしろ)久しぶりに書いた手紙は「アリガト」の4文字だけで終わってしまう
005:並(138〜170)
 (川内青泉)並列の豆電球がついたよと歓声あがる雪の教室
  (折口弘)お父さんいつ死ぬのかと問う息子 ベンチに並んでお茶を飲む春
 (つきしろ)オレンジのランプシェイドが欲しくなり、鈴掛け並木へ向かう日曜。
007:揺(123〜152)
  (保井香) 揺れている肩の向こうの天井の模様が見える 恋をしてない
 (萌香)迷想を見抜かれそうなかぐわしさ梅の香揺れる夜の歩道で
 (yurury**) ドア開くごとに髪先風に揺れきみまで幾駅色変はる空
 (魚虎) 風に揺れ秋の迷路が崩れたらあなたの家まで走ってゆこう
008:親(120〜149)
 (ゆあるひ)父親としての振舞い分からずも父親らしき振舞いの日々
  (保井香) 教室で親当て神経衰弱が始まる 今日は授業参観
 (ざぼん)うちの子さえよければいいと親ふたり泣くゆえ枯れた草に水やる
011:からっぽ(99〜128)
 (逢森凪) あのひとを失いわたしはからっぽになりましたもう風も吹かない
  (鬼龍児) 皆が吾の手を見ることのおかしさよコップの中はすでにからっぽ
 (林本ひろみ) からっぽの私に春を詰めていく溢れてこぼれる詰め草の白
013:クリーム(83〜115)
  (田丸まひる)色のないリップクリーム重ねてもばれないような嘘をつきたい
  (くろ) 花冷えの花屋敷から消えし子をソフトクリームもろてに探す
014:刻(78〜111)
 (飯田篤史)彗星のさみしさとそのやさしさはぼくらにあわく刻まれて はる
  (川内青泉)時刻む小江戸川越時の鐘平成の世に古きものあるまち
 (みの虫) 漏刻にながるるみづのうつろひに猫をはなるる路地のひだまり
  (秋野道子)砂浜に刻みおわらぬうちにもう波に消されるような約束
  (ワンコ山田)刻まれる覚悟して脱ぐ初恋の殻指を刺す固ゆでたまご
016:せせらぎ(72〜104)
 (新野みどり) せせらぎで泳ぐアヒルを見るために散歩のコースを僅かに変える
  (史之春風)せせらぎも桜も花鳥風月も後回しして予備校にゆく
  (みち。)せせらぎがよってたかって責めたてる たしかにあたしがわるいんだけど
017:医(68〜99)
  (田崎うに)医療器に囲まれ眠る父親に巻き付くコードの色を見ている
  (きじとら猫)柔らかな春の陽ざしと過ごす午後 医学辞典を枕に眠る
 (末松さくや)医者だけを夢見るやつが買うようなきみの眼鏡がひたいにふれる
053:ブログ(1〜26)
 (ねこまた@葛城) 読む前にブログスキンのあれこれに見惚れて過ぎる休日の午後
  (みずき)ブログとふ闇の部分を切り裂いて覗いてみたし欝なる日日を
 (丹羽まゆみ)まつしろな縁を乗せてブログからブログを渡る光の交叉
  (畠山拓郎)精神の病を背負う日常を義務の如くにブログに記す
055:頬(1〜26)
 (みずき)降りたちし終着駅は頬ぬらす海のひかりの旅情に青き
  (丹羽まゆみ)われの身をえらびし赤子やはらかな頬に力をみせて乳吸ふ
 (まつしま)頬杖をつく背景は雨の日の二階の部屋の窓辺と決める
  (飯田篤史) はるの日のもうもどれないやさしさの風がぼくらの頬をかすめて
 (春畑 茜)両頬をささへて午後の雨を見る硝子のさきの著莪にふる雨