題詠百首選歌集・その7

 正直に言って、去年より選択の物差しが少し甘くなっているような気もする。それが良いことなのかどうかは良く判らないが。
 ほかにもやりたいことがいろいろあるのだが、どうもこの選歌が強迫観念になってしまい、ついついほかのことは後回しになってしまう。「かくてはならじ」と我が身に言い聞かせてはいるのだが、果たして今後如何あい成りますことやら・・・・。


002:指(130〜180)
(黒田康之)ささくれた指に染み込む夜のあお青々としてまどろみを断つ
(内田かおり) 泥玉が小さな指に包まれてそっと置かれる靴箱の中
(睡蓮。) 洗い髪指に絡めて湯上がりの肌もてあます君のいない夜
(飯田篤史) こんなにもうみがとおくにみえるからこのまま指をつないでほしい
(癒々)冷え切った指先包む人もなく ひとりぼっちの街の隅っこ
006:自転車(108〜134)
(素人屋)手袋を忘れた朝の清しさよ 自転車のペダルぐんと踏み込む
(暮夜 宴) 3月の虹を探しに行くときは自転車だって立ちこぎのまま
(飯田篤史)自転車のひかりのなかのぼくたちのもうもどらないやさしさのなか
(睡蓮。)月見でも花見でもなく自転車にワインを積んで君を見に行く
007:揺(101〜122)
(振戸りく)さよならが揺れているのはストーブの炎で部屋を暖めたから
008:親(88〜119)
(紫峯) 珈琲の香りの濃くて親密な言葉の立てり 喫茶店「欅」.
011:からっぽ(67〜98)
(みずすまし) 時として世のしがらみも捨ておきて野に立ち心からっぽにせむ
(みあ) からっぽの腕をひろげて旅しよう あの空あの星つかめるように
(田丸まひる) からっぽのドロップス缶何度でも振り続けてるような さよなら
(飯田篤史)からっぽのこころのぼくははるのひのしずかなかぜをみつめてるだけ
012:噛(67〜96)
(ぱぴこ) 戦わぬ僕に犬歯のあることが悲しくて噛む冷えた指先
(みあ)知らぬ間に噛まなくなった左手の小指の爪がのびすぎている
(素人屋)味噌汁のあさりの砂の一粒を噛んだ朝だとこだわっている
(みの虫)残生や岩を甘噛む潮騒のおほわたつみをふかぶかときく
016:せせらぎ(31〜71)
(暮夜 宴) 穏やかな春の陽射しとせせらぎと不埒な恋と鮎の塩焼き
(水都 歩) 水温むせせらぎ鴨の旅支度鶺鴒は飛び水鶏は走る
(水須ゆき子)種籾を天水桶に浸すとき指の間(ま)淡きせせらぎを生む
(愛観) 過ぎ去った想いはいつも届かない場所で聞こえる遠いせせらぎ
(みゆ) せせらぎに春の歌声聴きながら 上着を淡い色へと替える
(方舟) せせらぎも暗渠となりて岸の辺の草木もなくて乾きたる街
(ぱぴこ)先生の声もノートを取る音もせせらぎと化す春の教室
(遠山那由) ブルグミュラーの「清い流れ」を弾きながら見たことのないせせらぎを聴く
(みにごん) 血管のせせらぎを聞く 生きててもいいよと言ってくれない体
017:医(30〜67)
(佐田やよい) 合鍵を医学辞典にはさみこむ見つけて欲しい気持ちとともに
(水須ゆき子)中庭の金魚の池がまず暮れて鈴木小児科医院しずまる
030:政治(1〜35)
(船坂圭之介) わがことにあらずと視線ふと外す脂ぎりたる政治屋の顔
(aruka) 舞台ではマリオネットの政治家が操る人を支配している
(本原隆)飛び乗った走る電車の食堂で詰め込むように政治済ませる
031:寂(1〜29)
 (行方祐美)寂しそうな風吹く春の朝があり半ぶんこしようとバナナ一本
(みずき)落櫻に寂しき髪の乱れたる人待つ夜の四条烏丸(からすま)
(髭彦)如月の夜の静寂(しじま)に牧水の歌口ずさみ独り酒酌む
(中村成志)寂しくてゆめであなたとあったのにもっとさみしくなった三月
032:上海(1〜28)
(髭彦)上海にぜひぜひ来よと言ひくれし留学生の癌に仆れり
(丹羽まゆみ)上海のネオン滲ませ冬に立つどこにもゆけぬ脚のなき虹
(まつしま) 上海の発音の語尾からみえる夜景はいつも瞬いており