題詠100首選歌集(その26)

選歌集・その26


009:ふわふわ(179〜203)
(ゆうごん)ふわふわを探していますいつからか見えなくなってしまったのです
(nnote)ふわふわの綿毛のような悪意あり野あざみ路地にうすあかく咲く
(もよん) 菜の花に タンポポ さくら れんげそう 春はふわふわ ゆるゆると過ぐ
013;カタカナ(153〜177) 
(沼尻つた子)カタカナで児をよぶときはあきらかにいらだつ母なのだろう私も
(村本希理子)折り鶴はカタカナのごと閉じられつ如何なる願いも抱かぬやうに
(ゆら)カタカナの固いカタチに囚われたセカイおはよう おやすみあなた
(迦里迦)カタカナの桜は散らず 尋常小 筒袖にサイタサクラガサイタ
(末松さくや) 一日の食事の中にカタカナがどんどん増えてゆく一人部屋
(ゆき) 言い出せぬ小さな嫌悪胸にある君はわが名をカタカナで呼ぶ
016:Uターン(130〜155)
(萱野芙蓉) Uターンしたつていいよ荒れる海やさしく抱かれたいわけぢやない
(若崎しおり) 惑うまま誘われるままUターンの言い訳探しあぐね靴脱ぐ  
022:職(101〜125)
(こうめ)その職を生業(なりわい)と呼ぶ人がいて 彼のキャベツは芯まで甘い
(迦里迦)飾られてうつつともなき有職(うそく)雛 弥生孤り家(や)何見て去ぬる
(ezmi)職はある帰る部屋に待つ人もある日暮れ家路に影を失う
(沼尻つた子)「元教員」 「元公務員」 無職とは名乗れぬ人らの新聞投書
026:コンビニ(79〜103)
(ことり)コンビニはさびしき魚礁仄白く発光すればウミユリが揺れる
野州)ありつたけの小銭を数へコンビニの弁当買うて猫と分け合ふ
(流水)真夜中のコンビニ奥のATM 期限の切れた夢を引き出す
035:ロンドン(51〜76)
(ゆり) ホームズの煙に巻かれてマフラーは阿片の香りロンドンは秋
(秋月あまね)九人ぐらい生んでみたいという君にブリキのロンドンバスをあげよう
(中村成志)古書店の軒をかすめて二代目の染井吉野がロンドンに散る
(花夢)あまりよくしらないひととロンドンの霧より深いところへ沈む
047:警(26〜51)
(はこべ) 警笛がながく尾をひく山奥の 鉄道若葉のなかに消えぬ
野州)道に咲くすみれのやうに真つ当な言葉は警戒されつつ聴かる
048:逢(26〜50)
(わだたかし)「会いたい」を「逢いたい」と打ちなおしてる メールに意味を持たせるために
ウクレレ)坂の上はじめて出逢ひし君は手にやさしい風を連れて来ました
(久哲) 虹になるつもりの虹に逢う場所の交差点から閉じる冬枯れ
(詩月めぐ)逢いたくて高速バスに飛び乗ったあの日のわたし 君は知らない
(天野ねい)「逢いたい」がこそばゆくって「今日飲みに行こう」に頼り続けて二年
049:ソムリエ(26〜52)
(わだたかし) ソムリエに決めてもらった結婚も時間がたって劣化している
(柚木 良)草原の小雨を挙げるソムリエの顔で不幸をたしなんでいる
(チッピッピ)ソムリエがワインを選ぶ眼(まなこ)して安酒選ぶコンビニの中
(蓮野 唯) ソムリエの手つきですっと触れられて秘めた逢瀬に香りが開く
(詩月めぐ)ソムリエに生まれて初めて会った夜 生まれて初めてされたプロポーズ
050:災(26〜50)
(七五三ひな)厄払い忘れしせいか君という災難我が身に降りかかる春
(チッピッピ)災が「今年の漢字」になった年なにがあったかもう忘れてる
(伊藤夏人)天災は忘れた頃にやってくる あなたは忘れられずに来ない