題詠100首選歌集(その42)

 酷暑が続く。昨日の練馬区の気温は38度を超えたようだ。考えてみれば、30度でも結構な暑さなのに、それを8度も超えるということはかなり異常なような気もするが、実感としては30度とそれほど違うという気もしない。老人は暑さに鈍感になり、熱中症にもなりやすいというが、私も老人の仲間入りしたということなのだろうか。

<ご存じない方のために、時折書いている注釈>

 五十嵐きよみさんという歌人の方が主催しておられるネット短歌の催し(100の題が示され、その順を追ってトラックバックで投稿して行くシステム)に私も参加して6年目になる。まず私の投稿を終えた後、例年「選歌集」をまとめ、終了後に「百人一首」を作っており、今年もその積りでまず選歌を手掛けている。至って勝手気まま、かつ刹那的な判断による私的な選歌であり、ご不満の方も多いかと思うが、何の権威もない遊びごころの産物ということで、お許し頂きたい。

 主催者のブログに25首以上貯まった題から選歌して、原則としてそれが10題貯まったら「選歌集」としてまとめることにしている。なお、題の次の数字は、主催者のブログに表示されたトラックバックの件数を利用しているが、誤投稿や二重投稿もあるので、実作品の数とは必ずしも一致していない。


             選歌集・その42

021:狐(156〜180)
(やすまる) 北の野の狐のような子別れののちの頭上に深々と空
今泉洋子)ひさかたの狐日和に惑ふ日は冷やし狸をするする啜る
(湯山昌樹) 日曜の狐日和に幼子は洗濯物と空を見上げる
(田中ましろ)かわいげのある女狐になりたくて「惚れちゃだめよ」を口ぐせにする
035:金(105〜129)
(遥遥)爽やかにお金が全てじゃないですと、金が全ての話はじめる
(マメ) 串を刺す節くれ指の忙しなさ四時の金町はだ寒き路地
(黒崎聡美)スプーンの金色くすみ母はまた湿り気のある溜息をつく
036:正義(105〜129)
(ふみまろ)乙女座のわれと射手座のきみの間にゆれる正義を秤にかける
(湯山昌樹)「教室に正義はあるか?」と語りかけいたずら小僧の名乗るのを待つ
(南野耕平)四方から正義の味方が現われて僕の正義をボコボコにする
037:奥(101〜126)
(櫻井ひなた) あまりにも平和な午後はセールスと電話片手に奥様ごっこ
(黒崎聡美)満開の桜つらなる公園は翳りをはらみ少し奥まる
(湯山昌樹) 「奥様は?」と電話で聞かれるそのたびに「半人前」なる言葉が浮かぶ
(越冬こあら)「奥さんから電話ですよ」と伝えられ毎回ちょっと迷わす苗字
038:空耳(103〜127)
(ふみまろ) 音のなき世界に生きて空耳を知らざる君が海をみつめる
(伊倉ほたる)スカートのプロバンス柄がひらめいてきわどいことも空耳にする
(白田にこ)しあわせをそっと包んだ毎日の庭でちいさな空耳を聞く
049:袋(79〜103)
(豆野ふく) 久々の足袋の小鉤を留めながら 言い訳ひとつ考えてみる
(五十嵐きよみ) 片方をなくしてしまった手袋のもう一方のようにさみしい
(生田亜々子) 一枚の袋となれり猛りたるやさしきものを受け入れた夜
(こすぎ)袋小路焦げ茶色した泥はねて父亡きままに父の日来たる
063:仏(52〜76)
(蝉マル) 神様でも仏でもない 幸せは時どき墜ちる久米の仙人
(新井蜜) 人形の小さな首の喉仏 男はいつも暴力が好き
(sh)今はただ石としてそこにあるだけの石仏だったことのある石
(橘 みちよ) ネクタイをゆるめし男無防備な喉仏にてコーヒーを飲む
(七十路ばば独り言)生きるとは傲慢なことそれぞれに神仏心に抱きおれども
(斉藤そよ) 牧柵と仏蘭西菊にかこまれたエリアのなかのそれが八月
(飯田和馬) 真夏夜の仏降ろしに紅の唇二つうすく開きぬ
(草間 環)仏蘭西パリオペラ座の屋根の上養蜂家たち蜂蜜をとる
064:ふたご(52〜77)
(龍翔)あるいみでふたごのようなものだろう。おもてのわたしとうらのわたしと。
(如月綾)本当はふたごで生まれるはずだったみたいに気が合う僕たちふたり
(原田 町)さる宮家ふたご伝説まゆつばと思いながらも立ち読みをする
(水絵)ふたご座のラッキーカラーのハンカチを 疑いつつも秘かに持てり
065:骨(51〜76)
(龍翔)「骨盤の形が良い」と言われても、どうも素直に喜べないの
野州)またひとり友を失くして帰る途骨の色した煙を見上ぐ
(橘 みちよ)Tシャツの鎖骨匂へるはつ夏の少女らの胸ふくらみはじむ
(新田瑛)消えてゆくあなたを引き留めるように肩甲骨を両手でつつむ
(すくすく)君に手を差し伸べられて僕の背の肩甲骨は翼に変わる
(水絵) 散骨を孫に頼みて冥土旅 墓の下など眠れるものか
(五十嵐きよみ) あっけなく吹き飛ばされる安物の傘の骨ほどもろい決心
067:匿名(51〜75)
(蝉マル)「ヒツウチ」という匿名にて掛けてくる顧客様少なくとも五、六人
(原田 町) バスツアーのアンケート用紙サービスは不満と書いて匿名にする
(水絵) 匿名で始めたブログ気が付けば 顔も名前も尻尾まで出し
(櫻井ひなた) 知られたくないけどわかってほしかった 匿名の裏にあたしはいます