題詠100首選歌集(その15)

         選歌集・その15


002:急(90〜114)
(美亜)急流に呑み込まれてく花筏次に会う日を約束しない
(くゆり)急階段登り始めた足取りのおぼつかなさに君思い出す
040:清(26〜50)
(湯山昌樹)富士山の伏流水の清らなるに育まれたる水かけ菜あり
(RussianBlue)まだ冷たい春の清流畏れつつ素足を浸し魚になりゆく
041:扇(26〜50)
(五十嵐きよみ)華やかに広がる裳裾、手に扇 レベッカは絵の中で微笑む
(湯山昌樹)何となく心ひかれる人のありて京扇子など購いてゆく
042:特(26〜51)
佐藤紀子)特急の通過待ちする各停のドアより春の風の入り来る
(文乃)子育ての特等席にいるのだと思えば辛さも目減りしていく
080:標(1〜25)
(横雲)道標(みちしるべ)さしてる先に紅白のおぼろにかすむ梅林を見る
佐藤紀子)標本木にひらく桜を数へつつ開花宣言待ちかねてをり
(原田 町)「核のごみ持ち込ませない」を標語とし選挙カー行く市議選近し
081:付(1〜25)
(横雲)付け下げの名古屋の帯をほどくとき盛りの花がとめどなく散る
(天野うずめ)言い訳がうまくならない「付き合いがあるから」というメールを送る
(五十嵐きよみ)もう何のために貼ったかわからない黄ばんだページの付箋をはがす
082:佳(1〜25)
(志稲祐子)昼休み終わったことに気付かずに読んでる本が佳境に入る
(はこべ)顔佳花(かおよばな)うつくしき名を教え給う百三歳の師の訃報きく
(原田 町)「佳子さま」の見出しにつられ週刊誌ひろい読みするパーマの合い間
083:憎(1〜25)
(天野うずめ)憎しみを一つ二つと数えつつ洗濯物は畳まれてゆく
(千原こはぎ)憎しみのひとつひとつを羽にして手放していく晴れた屋上
(はこべ)憎き雨見上げる空は雲間なく薪能の夕濡れる篝火
085:化石(1〜25)
(ひじり純子)デパートの地下の階段ひっそりとアンモナイトの化石が眠る
(紫苑)午まだき遊びつかれて眠りゐる仔猫二匹は化石のかたち
佐藤紀子)指さして教へてもらひ岩肌の木の葉の化石にやつと気付けり
(短歌はじめます、さざなみ)見られゐる化石のあはれふと思ふ 人のまばらな博物館に
093:わざわざ(1〜26)
(横雲)わざわざのお出ましなればこの寒さ耐えて待ちいる地吹雪の駅
(映子)もう少し待ってて夜は長くないわざわざ夢に出なくったって