題詠100首選歌集(その17)

                 選歌集・その17

006:券(101〜125)
(村木美月)色褪せた半券さえも棄てられぬ七度目の夏受け入れている
(鮎美)はつなつの驟雨上がりて紫陽花を映す金券ショップのガラス
(女郎花)半券を捨てられずにあるポケットの熾火が冷えてゆく真暗がり
009:テーブル(85〜109)
(由子)わが母がホームに行きて一年のこのテーブルはパンを置くのみ
(美亜)テーブルをゆっくりと拭くもう二度と君の涙を見ることもない
(杜崎アオ)かみあわぬ会話をひどくしめらせてテーブル越しに雨ふりやまず
(村木美月)テーブルに並べておいた幸せと不幸せとが喧嘩している
021:仲(51〜75)
(はぼき)青白い灯に守られて新旧の路面電車は仲良く眠る
(ロクエヒロアキ)仲間割れしたかみさまがきらきらとスコール降らす夏の谷底
043:慣(27〜51)
(原田 町)千駄木の通い慣れたる坂道を今日はきついと思うことあり
(山本左足)慣性の法則により今はまだ布団の中で静止している
(はぼき)慣れてきたころが一番危険だと気を引き締める二年目の夏
(湯山昌樹)あの人のいない日々にもいつか慣れ記憶も徐々に薄れて悲し
045喋(27〜51)
(原田 町)うるさいと一喝されてお喋りを冷めたコーヒーとともに飲み込む
(山本左足)沈黙が苦ではなくなる夕暮れが来るまで君と喋り続ける
(由子)幸せな喋りのなかにひとりいてわれはホームの母に服編む
(はぜ子)お喋りをやめない子らが撒き散らす不必要なまで鮮やかな花
(ひじり純子)ホンの少しお喋りが多くなる人と一緒に過ごす居酒屋が好き
046:間(26〜51)
(こはぎ)教室に並ぶ机の間隔は本音と嘘をうまく隔てる
(槐)夢の間に過ぎゆく時を惜しみつつ恋のページをふたりめくれり
047:繋(26〜51)
(希屋の浦)繋船がゆったり波に揺られててわたしの心もゆっくり揺れる
080:修(〜25)
(みずき)六月の木陰の椅子に捲りたる寺山修司と午後の珈琲
(砂乃)修士課程終えた娘の晴れの日の仕事が少しわずらわしき春
(新井蜜)この橋を渡れば会へる沈黙の阿修羅のやうな小さな顔に
081:自分(〜25)
(紫苑)歌に生き恋に生きむときめてより自分史は辿らぬとうそぶく
(みずき)あの冬の悲劇へめくる自分史の余白に挿む亡父の手紙
(橋田 蕗)三十年後の自分があるのならこんな寝顔か 母をみつめる
(ロクエヒロアキ)ただよえば鳥の自分が着水す 海も大地もはだかに戻れ
082:柔(〜25)
(みずき)柔らかな春の真水に浸したる運命線の薄き手のひら
(ロクエヒロアキ)砂浜に柔毛(にこげ)が生えてあたらしい鳥と季節がしずかに止まる