題詠100首選歌集(その23)

           選歌集・その23


014:壇(79〜103)
(只野ハル)仏壇の花にも蜜の秘められて羽虫密かに潜り込む午後
(こと葉)花壇にはひときわ高きひまわりのなぜか寂しい絵日記の夏
(砂乃)壇上の政治家ほどには饒舌になれない愛の告白を呑む
(ゆき)上品と下品のあひだ行き来して壇蜜ぬらりと笑ひてをりぬ
015:艶(76〜100)
(藤野唯)黒髪の艶とノクターンの楽譜ゆるされたとは思っていない
(さくら♪)折れそうな心支える艶やかな夏の笑顔をたずさえていく
(こと葉)艶やかな水面にゆれて紅の夏を告げたきサヨナラの風
017:サービス(77〜103)
(莢)サービスという言葉は少しさびしくて紙に包んで持つ砂糖菓子
031:栗(51〜75)
(廣珍堂)庭先に栗の毬ほつと落つるとき振り向く童日射し受けをり.
(白亜)甘栗をうまく剥けないひとの指をみている短夜、すこしからかう
(海)黄緑のいがいがを着た栗の実が輝いている梅雨明けの朝
032:叩(51〜75)
(廣珍堂)鉄骨を叩く音する工場は油のにおい濃くなって雨
073:谷(26〜51)
(鈴木麦太朗)五月ではない月のこと想いおり 石楠花の谷をあるく五月に
(原田 町)銀やんま谷津田に追いしあの頃は今より長い夏の一日
(円)通勤は不気味の谷を経由してヒトの顔してホームに降りる
(湯山昌樹)晩夏には朝霧が谷を埋めつくす 秋が一足早く来る街
(五十嵐きよみ)詠みあぐね眺めるうちに「谷」の字が困った顔の自分に見える
(コバライチ*キコ)薄暗きビルの谷間の百日紅のあわき紅晩夏に揺れる
(深影コトハ)寂しさを一時預かってくれるらしい 渋谷駅構内のどこかで
074:焼(26〜50)
(はぼき)オムレツか目玉焼きかで争ってスクランブルの朝の食卓
(髯仙人)仕舞い蝉 麦わら帽子も 帰ってく ひまわり畑に 夕焼け小焼け
(諏訪淑美)我もまた紫煙となりて上るのか焼き場の煙しばし眺めぬ
(コバライチ*キコ)焼売は冷めても旨いさう言ひて経木の蓋を静かに開ける
(廣珍堂)焼きだれにはるか黄砂の香りして中国産のウナギの太さ
(有櫛由之)アルコールランプの蒼き火もて焼く栄螺に泡はふつふつと来つ
075:盆(26〜50)
(原田 町)花祭り盆の供養も旧暦のこの地に住みて猛暑に耐える
(佐野北斗)迎え火の煙は青くたなびいてきみを迎える盆がはじまる
(五十嵐きよみ)いくつもの湯呑が盆に伏せられて法事の客の訪れを待つ
(有櫛由之)ほつほつとともし火消えて地蔵盆の子らの声こゑあはく残りき
(椋)盂蘭盆の賑わい終わる故郷に ほおずき紅く秋歩み寄る
(槐)盆過ぎて畔に朽ちゆく曼珠沙華恋ふ人遠く秋深まれり
076:ほのか(26〜50)
(原田 町)明けがたのほのかな夢に見えくるは幼きままの四十息子
(湯山昌樹)ほのかなる香りに振り向き苦笑する CMみたいな銀座の三時
佐藤紀子)初恋のほのかさほどに淡あはと紅に染めたりはなびら餅を
(まる)君の香のほのかに残るワイシャツをたたみて湯より出で来るを待つ
077:聡(26〜50)
(鈴木麦太朗)聡明な黒いやつらにゴミ袋ぐちゃぐちゃにされ朝ははじまる
(原田 町)聡き眼や聡き耳など失いて見聞きのままに右往左往す
(ほし)消しゴムに落書きしたるイニシャルを目聡き友に問はれてゐたり
佐藤紀子)聡明な子らに育てと名付けたり長男聡、長女は明子