題詠100首投稿(平成28年)

 五十嵐きよみさんという歌人の方が主催されているネット短歌の催しに、この10年ばかり参加して投稿している。毎年1月末に100の題が示され、その順に添って11月末までに投稿するという催しである。なお、私の勝手な思いつきで、毎年私のブログに、私の気まぐれによる選歌集を掲載し、会が終わったところで、勝手な百人一首を選んで来ており、これは今年も続ける積りである。
 去年までは、それぞれの参加者のブログからのトラックバックを通しての投稿というシステムだったので、半ば自動的に私の作品もこのブログに掲載していたのだが、今年からブログからではなくフェイスブックによる投稿というシステムに変わったので、このブログに私の作品を掲載する直接のきっかけがなくなった。それはそれで良いのだが、これまで自作をブログに載せていたのを取り止めるのも物足りないので、投稿した作品を今日のブログに纏めて載せることにする。なお、去年までは、投稿の中には未公表の在庫品もあったのだが、今年は気が変わって、すべて新作によることにした。それだけに、作品のレベルが多少落ちているかも知れない。


       題詠100首投稿作品(平成28年)

001:地 人類は地球を壊しつつあるか我も小さな一員として
002:欠 テレビドラマ見つつ居眠りしたるらし一瞬意識の欠落ありて
003:超 マジシャンは超人的な技見せていと慇懃に一礼をせり
004:相 相当な人物だよと友の言いし人のあしらいにやや惑いおり
005:移 古き日に祖母の縁者が移住せしハワイにもはや知る人もなし
006:及 老いとともに詩藻乏しくなりたるか及第と思う作の減りたる
007:厳 「厳寒」と書きし便りを出さぬうちに五月はじめの気温となりぬ
008:製 製鉄所の煙突が吐く黒煙を頼もしと思いて見し時期もあり
009:たまたま 歩き疲れたまたま入りし食堂にわれの好みの絵の掛りおり
010:容 容量の小さきことに気付かぬまま権力を弄ぶ人あり
011:平 平成元年生れなるかとからかえり平一という名の先輩を
012:卑 滔々と自説を述べる政治家の目許卑しとわれは見ており
013:伏 伏線に気付かぬままの最終章 小説ならばそれでも良いが
014:タワー スカイツリー出来たることも知らぬげに東京タワー悠然とあり
015:盲 「盲」というは差別用語であるとして歌詞を変えたる歌もあるらし
016:察 ご明察とひとまず褒めておいた上で次のセリフを考えており
017:誤解 誤解だと言い切るには疚しき面もありて歯切れの悪きこと言いており
018:荷 畠より荷車引きて帰りたる海辺の道には陽の差していき
019:幅 幅広のネクタイ流行りし時期もありて箪笥の隅にまだ残りいぬ
020:含 そこここに白梅咲きぬひそやかな彩りを持つ紅を含みて
021:ハート ハートのクインと念じて引いたが出て来たは似ても似つかぬスペードの3
022:御 御影石が特産なるという島を左に見つつ船は進めり
023:肘 肘当てをしたセーターを恰好良いと見ていた時期が我にもありき
024:田舎 少年期は田舎暮しの日々なるを我がささやかなプライドとせむ
025:膨 日差し強き光の春の午後なりて梅のつぼみもはや膨らみぬ
026:向 雨降れば少し萎れた向日葵が畠の隅にただ立ちている
027:どうして どうしてもやらねばならぬと焦りたる夢より覚めて手洗いに立つ
028:脈 人事記事は遥か後輩ばかりにて我が人脈もあらかた失せり
029:公 公園の芝生で遊ぶ幼ならの声の響きて春とはなりぬ
030:失恋 好きだとも言わず離れた遠い日々これも失恋と呼ぶべきものか
031:防 国防との語にきな臭さ抱くのも戦の記憶持つわれゆえか
032:村 似た文字は 祟る・崇める 役人・投入 鷽(うそ)と鶯 「蕪村」は「無料」
033:イスラム いまひとつ馴染めぬ気持も抱きつつイスラム寺院の前を過ぎたり
034:召 「大君に召され」し兵士ら次々に失せたる南の島静まれり
035:貰 マイナンバーのカード貰いに行く道のそこここに梅の花咲きており
036:味噌 古き日の記憶辿ればふるさとの自家製の味噌は水気の多き
037:飽 以前より飽きやすくなったと思うのも喜寿を過ぎたる齢のゆえか
038:宇 「八紘一宇」は死語になりしと思いいしにこれを讃える質疑ありとか
039:迎 母親の迎え待ちいる園児らの声甲高くここまで聞こゆ
040:咳 「咳をしても一人」と詠みし俳人の寂しさ思えり旅の雨の宿
041:ものさし 言わでものさし出口とは知りながらつい口走るも老いたるゆえか
042:臨 日の当たるベンチで電車待ちおれば臨時列車が音立てて過ぐ
043:麦 汽車行けば麦の穂は黄に連なりて日は西空に傾かんとす
044:欺 時折は威嚇と誇張を繰り返し政権は詐欺商法に似る
045:フィギュア フィギュアの選手滑ればむずかしき技もたやすき技巧に見える
046:才 既に亡き人賑やかにはしゃぎおり昭和の漫才テレビに見れば
047:軍 違和感と郷愁ともに抱きつつ旧軍港の街を歩めり
048:事情 事情通の友にてあれどそのことの顛末は彼も知らぬとのこと
049:振 幼き日小暗き座敷で鳴っていた振り子時計の時鐘懐かし
050:凸  凹凸は日本の月と変わらぬままパリの満月テレビに映る
051:旨 その趣旨は理解できないではないがもうひと工夫できないものか
052:せんべい 山小屋のせんべい布団にくるまって若き夢見しこともありたり
053:波 風強き海岸通の日の低さかすかに波の音の聞こえて
054:暴 暴走を止めるブレーキなきままに政権右にハンドルを切る
055:心臓 心臓に悪い話と前置きしさほどでもなきことを言いおり
056:蓄 昨夜よりの風も次第に収まりて石油備蓄基地に夕日が沈む
057:狼 省みる姿勢を持たぬ政権に狼藉者と叫んでみたし
058:囚 人はみな社会という名の枠の中に囚われいるやそして我もまた
059:ケース 新婚のころに使いしスーツケース古びて納戸の片隅にあり
060:菊 古き日は菊人形で名をはせし坂のあたりに住みしことあり
061:版 出版の意欲はあれどフトコロと相談の上まずは見送る
062:歴 それぞれに異なる歴史を経て来たる友ら集いて酒呑む今宵
063:律 自らを律する姿勢薄きまま断定口調の答弁続く
064:あんな あんなことこんなことなどあったねと冬の夜更けて昔語りす
065:均 スーパーもコンビニ百均も近ければチラシ並べて妻が思案す
066:瓦 トンネル出れば川の流れの向き変わり赤き瓦の家並み続けり
067:挫 挫折というほどではないが失敗は年経るほどに積み重なりぬ
068:国歌 このところ違和感あるはニッポンコール、国歌斉唱、万歳三唱
069:枕 明け方の浅き眠りは覚めやすく枕を少しずらしておりぬ
070:凝 凝結材入れてイザナギ掻き回しオノコロ島を産み給いたり
071:尻 ことば尻とらえるは本意ではないがお粗末発言飛び交う世相
072:還 「還浄」との札を掲げし家のあり古き家並みの潮待ち港
073:なるほど なるほどと納得できる政策の少なきままに政権続く
074:弦 漫然と月見ておりぬ上弦と下弦の違い怪しきままに
075:肝 肝腎な話題は避けてお互いに迂遠なことのみ話しておりぬ
076:虜 俘虜虐待の罪に問われし人もありし彼の日は無限の彼方となりぬ
077:フリー フリースペースと名付けし部屋に日が差して使われぬまま月日が経ちぬ
078:旗 旗立てて小さき汽船の入り来る今日の港は晴れて穏やか
079:釈 釈明をいまさらするのも億劫でそれじゃこれでと靴履きており
080:大根 大根が名産ですねと言う人あり練馬区人口七十二万
081:臍 晩秋のマラソンコースに日は差して女子選手はみな臍出して走る
082:棺 亡き人は微笑んでいるように見ゆ棺の中の花に埋もれて
083:笠 笠地蔵が連れ立ち訪ねて来る話 雪の降る夜はほっこりあったか
084:剃 剃り後の青々とした尼なりて常の人よりなまめきて見ゆ
085:つまり 更けたれば互いの疲れも手伝いて話そろそろ煮つまりて来る
086:坊 達人を自負するわれが「とっちゃん坊や」をこれまで逆に解しておりぬ
087:監 安全とプライバシーの間に立ちて監視カメラは悩んでおらむ
088:宿 畳敷きの廊下やさしく連なりて宿の夕餉の部屋に向いぬ
089:潮 島に渡る橋より見れば渦潮の流れに抗して船進みおり
090:マジック マジックもここまで来れば魔術にてテレビの前に茫然と居る
091:盤 紙製の野球盤にて遊びたる幼き日々の我にもありき
092:非 「非国民」「反日」などという言葉生き返りいることの怖さよ
093:拍 遠くより火の用心の拍子木の音流れ来て月冴えわたる
094:操 世論をば操縦するに長けた人右旋回を強めんとする
095:生涯 毎日が生涯はじめての日なること知りつつ怠惰な日を送りいぬ
096:樽 バーレルは樽の意味とは知りつつもその体積は忘れ果てたり
097:停 停車場という趣の駅舎にて一日五便の列車待ちおり
098:覆 俯瞰すればこの列島の上空はどす黒き雲覆いおらむか
099:品 昨今の為政者見ればあらかたは品格のなき顔が並べり
100:扉 「どこでもドア」を中国式にいうならば「随所扉」とでも書くべきか