おみ九字都々逸

㈱写研主催の「日本語と遊ぼう会」という会に参加して、第一席になったこともあるということは、二日目に私の自己紹介のところで書いた。その会で知遇を得た岡田寿彦さんという方が、「おみくじ都々逸」という言葉遊びを提言しておられる。岡田さんは、日本語に関するパズルなどのベテランで著書もおありの方なので、御存じの方もおられると思う。なお、この「日本語と遊ぼう会」は、学力テストめいたものもあり、パズルめいたものもあり、それやこれやで日本語の「蓄積」や「使用能力」や「頭のひらめき」を探る大変面白い会で、私はすっかり気に入っており毎年参加していた。また一企業がこのような会を主催しておられることに感服していたのだが、残念ながら、企業としての物心両面の負担が大きくなったようで、数年前に中止となったことは、至って残念なことだ。
 話を戻すと、「あ」なら「あ」を九回以上使って、七七七五の都々逸を作るというのが、「おみくじ都々逸」のルールである。はじめてそのお話を耳にした際、「「あ」や「か」ならできるでしょうが、「ら」や「る」でもできるのですか」と伺ってみたら、「できますよ」と御自作を披露され、なるほどと感心した記憶がある。「おみ九字都々逸」という名前は、「おみくじ」という言葉をもじって、それに「九文字」という言葉を充てて、岡田さんが命名されたもののようだ。
 岡田さんの話を聞いて私でも何とかなるのではないかと思い、早速挑戦してみた(もう10年以上前の話ではあるが)のが次の作品(?)である。我れながら出来が良いと思うものもあるし、感心しないものもたくさんある。お笑い草までに御披露してみたい。皆様も一度トライしてみられたらいかがでしょうか。
 
 <あ> 有明あたりを 相合傘で あなたと歩く 雨の朝
 <い> 粋な若い衆 いろいろいるが 色の白いが いいと言う
 <う> 裏の老人 謡(うたい)唸れば 九官鳥も 歌歌う
 <え> 添えぬ縁ゆえ 笑顔も消えて 襟足さえも 冷えびえと
 <お> 大きなお世話と 怒っておいて 思いを送る おどけ顔
 <か> 買うか買わぬか 価値決め兼ねて 判らぬままに 株を買う
 <き> 汽笛聞こうと 来た北の町 汽笛消え行く 霧の中
 <く> 苦楽をともにと 約束したが 楽は少なく 苦が九割
 <け> 酒は経験 ケチケチするな 今朝のツケなど 消しておけ
 <こ> この子どこの子 小柄なこの子 子猫小脇に 日向ぼこ
 <さ> 笹の葉さらさら 五月(さつき)の朝は 朝霧肴に 酒を差す
 <し> しかししかしと 渋りはしたが 利子は嵩むし 返し時
 <す> 煤(すす)掃き済んだし 師走も過ぎた 双六する手で 墨を磨る
 <せ> 先生先輩 焦らぬように 生徒はせっせと 汗流せ
 <そ> そんな素振りで 気を唆っても 添えそで添えない よその空
 <た> 浴衣畳んで 畳に置いて そっとあなたの 肩叩く
 <ち> 父母(ちちはは)求めて ちんちん千鳥 あちらこちらを よちよちと
 <つ> 慎ましやかに 月見る妻は 嫁いで五日の 筒井筒
 <て> さても手慣れた てんてん手毬 手と手絡めて 手を習う
 <と> 隣のととさん 年増の人と 止めて止まらぬ 仲という
 <な> 元就(もとなり)夜な夜な 泣言並べ 毛利なかなか 名をなさぬ
 <に> 西に虹立ち 庭には君の 虹に似合いの 紅匂う
 <ぬ> 主(ぬし)の衣(きぬ)縫う 縫い針抜いて 主が来ぬかと 濡れぬかと
 <ね> ねんねねんねと ねんねこ揺すりゃ 寝た子寝覚めて 指ねぶり
 <の> ぼくの望みの のっぽのあの子 昨日のうちに 人のもの
 <は> 母は二十(はたち)で 母とはなりぬ 花も恥じらう 春の夜半(よは)
 <ひ> 一日(ひとひ)一夜(ひとよ)の 人に惹かれて 昼の日中の 陽の低さ
 <ふ> 豆腐屋夫婦は 似合いの夫婦 笛を吹き吹き 冬の道
 <へ> へらへらへつらい へいへいへいと 変な返事で へり下る
 <ほ> 頬と頬寄せ 微笑むほどに ほんに惚れたは 果報者
 <ま> ままよ待つ間に 妻との団欒(まどい) 待つ間逃がして 待ち呆け
 <み> 闇に乱れて 耳たぶ噛めば 耳も見せない 乱れ髪
 <む> 娘麦踏む 向かいの村は 寒々(さむざむ)とした ダムの村
 <め> 目と目見交わす 夢より目覚め 目覚めて後の 夢巡り
 <も> 桃も李(すもも)も もうもぎ頃と 妹ともども 森へ行く
 <や> 岸の柳や やつでや栢(かや)や 山小屋の日々 懐かしや
 <ゆ> 揺れれてゆらゆら 山百合小百合 湯の香床しき 出湯行く
 <よ> 選(よ)りに選ったる みめ良い嫁御 よその嫁より 良い嫁御
 <ら> お蔵のつらら ランプのガラス 村の甍(いらか)も ゆらゆらと
 <り> 無理なやりとり 理屈が足りぬ やりくりしても 無理は無理
 <る> 矢車くるくる 回るを見ると ふるさとの春 偲ばるる
 <れ> 惚れて振られて 暮れれば未練 離れに来れば 暖簾揺れ
 <ろ> そろそろやろかと 炉端(ろばた)の弱火(とろび) どぶろく白く とろけごろ
 <わ> 川の脇道 こわごわ渡りゃ 沢は泡湧き 水騒ぐ
 <ん> 「運鈍根」との 古人の言も 「運」は来ん来ん 「鈍」ばかり