題詠100首選歌集(その29)

 この週末、法要のために関西に行き、ついでに奈良県今井町橿原市)に足を伸ばして来た。あるテレビ番組で、小京都ナンバー1に選ばれたということもあり、はじめて訪ねてみたのだが、かなり広い区域の街並みが保存されており、なかなかのものだと思った。あまり観光地化されておらず、それが良さでもあり、物足りないところでもあったが・・・。土曜日だったにもかかわらず観光客もほとんどいない。翌日、京都や大阪に住んでいる身内にその話をしたら、彼らも「知ってはいるが、行ったことはない」とのことだった。好き好きではあるが、私は「流石第1位だ」という印象を受けた。


        選歌集・その29


021:サッカー(136〜160)
(萱野芙蓉) サッカー地の服の軽さよ弾みくる夏の子を抱きとめればひかり
(音波)サヨナラが終わったサッカーフィールドに汽笛が響く海沿いの街
034:岡(80〜104)
ひぐらしひなつ)静岡の訛りを運ぶ鈍行の車両揺れつつ揺れつつ 土曜
(青野ことり)降り立った福岡の町天神は沈む汀の太陽の色
(橘 みちよ)岡惚れはとどめ難しも夕闇に山法師しんととがり咲きをり
041:存在(53〜78)
(遥遥)唐突に存在の意味問う君の葉の影ゆれる足元を見る
(萩原健之)猫の存在は謎めいて翡翠色の瞳に映る世界の夕暮れ
(大辻隆弘) 存在と時間におもひめぐるとき猫の素足が眼前を過ぐ
(村本希理子) 笹の葉の存在感を言ひながらまなじりながきひとに寄りそふ
042:鱗(53〜77)
(七十路淑美)鱗持ち魚は身をば守るとや我は心に鱗装う
(萩 はるか) 見よう見まね我は母の娘(こ)祖母の孫 鱗まみれの手で鮭さばく
(村本希理子) まないたに鱗ちらしてゐるやうな春がすぎゆくひかり曳きつつ
(小早川忠義)曇天の海にきらめき見えずして波打ち際の魚の鱗
(大辻隆弘)ろくぐわつの川面を風のわたるとき鱗のごときひかりは走る
043:宝くじ(51〜75)
(ほたる)宝くじを丸めて覗く向こうがわ運命のフィルターかけてみたくて
(萩 はるか)宝くじ売り場の横の和菓子屋で買うくるみもち地味なしあわせ
(富田林薫)宝くじ売り場のよこに絹糸をしずかにつむぐ糸繰りぐるま
(斉藤そよ)お散歩のひみつひろばの宝くじ売り場で五月タランボを買う
(大宮アオイ)宝くじ胸に忍ばせつかつかと雑踏の街を足早に行く
057:パジャマ(27〜71)
(七十路淑美)もし我が先に逝きなばパジャマなど君の衣替え誰がするやら
(流水)一人着たパジャマを一人洗っては一人で干して一人で畳む
(萩 はるか) 「見せパジャマ」と命名しますお泊まりで着るためだけの白地にハート
089:減(1〜25)
(船坂圭之介)減塩の不味さに思ふつくづくと腎病む不幸死に勝るかと
(梅田啓子) 母逝きし齢に四年と近づきてぎりぎりまでを義理減らしゆく
(那美子)いつの間に疎遠になりし友人の   メールが減りて行きて初春
(はこべ) 減塩のレシピ目につくこのごろは立ち話にも花がさくなり
090:メダル(1〜25)
(夏実麦太朗) 金銀のメダルあるから次は銅娘は笑って半紙に向かう
(磯野カヅオ)若き日に獲りしメダルと同じだけ道外れたる恋草数ふ
091:渇(1〜25)
(みずき)枯渇せる泉は空を映しえず星降る夜の底ひ溜めゐし
(夏実麦太朗)極限のエクスタシーを得るために渇いた喉をこしらえておく
(那美子)君からの言葉渇望するけふの  母の隣の微睡みの昼
(Asuka)渇きたる心に突き刺す言の葉に 砕けた欠片ただ見てるだけ 
092:生い立ち(1〜26)
(船坂圭之介)生ひ立ちのさして華々しくもなくひとり異郷に果てなむと 吾
(夏実麦太朗) 生い立ちの記の第二章思春期は脚色したい事柄ばかり
(那美子) 幾度目か吾の生い立ちをゆふるりと  黙して聞きぬ優し眼差し