題詠マラソン・スタート前の感想と自作一覧

引き続き題詠マラソン。他の方の作品ばかりというのも気が利かないので、今日は私の参加作を御披露したい。マラソン開始前に、主催者のサイトに次のような「参加の弁」を投稿したので、これもついでに添えておきたい。
[2956] スタート前のとりとめもない感想 投稿者:西中眞二郎 投稿日:2005/02/03(Thu) 16:33
参加申込みにも書いたように短歌歴は五十年と長いものの、題詠というのははじめての経験です。「新年歌会始」も「題詠」と言えば題詠ですが、あれはご承知の通り御題は一つだけですし、それも「青」とか「幸」とかといった幅の広い題なので、大体在庫品をベースにすれば間に合っていました。ところが、この題詠マラソンは、到底在庫品で間に合うような代物ではなさそうです。
  私の短歌は、専ら自分が実際に体験したことや、実際に感じたことだけをテーマにするというのがモットー(?)で、これまで2回上梓した歌集もいずれもそのモットーに添ったものでした。しかし、今度はそうも行かないようで、そういう意味では、全く未知の世界への参入です。
  そもそも短歌とはどういうものなのか・・・という定義とも絡んで来るのかも知れませんが、「自分の生活から離れての創作」、良く言えば「想像力を駆使しての創作」、悪く言えば「自然な感情を離れてのデッチアゲ」、いずれにしても、少しオーバーに言えば、これまでの私の短歌とは全く異なるジャンルのものへの挑戦という気持もあり、スリルを感じているところです。もっとも、私自身から全く離れた創作・・・例えば「10代の女性になった積りでの恋物語」というところまで行ってしまうと、全くの言葉遊びになってしまうような気がしますので、それは避けたいとも思いますし、他方、それはそれで面白いという気もしないではありません。皆様はどうお考えでしょうか。それにしても、号砲が楽しみです。
  なお、当面他の方の作品は、なるべく読まないようにしたいと思っております。他の作品を読むと、その気がなくてもそれに引きずられてしまいそうな気もしますし、また、それを恐れ過ぎると他の作品の存在が作る上での制約になってしまいそうな気もしますので、「周囲に目を閉ざして、専ら自分だけの世界に没入すべきかな」などと思ったりしております。
  以上、走り出す前から、愚にもつかぬ長談義をしてしまいました。開始を楽しみにしております。
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私がゴールしたのが、開始から8日目の3月8日、ゴール順は第8位だったらしい。もっとも早ければ良いというものでないことは当然で、全く気に入らない作品もかなりある。「題」の順に投稿するというルールなので、一つ痞えてしまうと先に進めない。したがって、「老い先短い身」としてはつい焦ってしまい、、無理やりでっちあげたものもある。以下の拙作は、創作経緯に添って一応分類してみたが、このうち「○」を付けたものは、他の方のブログ等である程度の評価をして頂けたもの(「◎」は複数の方が取り上げて下さったもの。なお、これらのほかにも私が気付いていないブログがあるかも知れない。)である。私自身の好みと共通のものもあり、そうでないものもあるが。また、「×」を付けたものは、私自身が「全くお恥ずかしい駄作」だと思っているものである。来年も参加するとすれば、せめて「×」を付ける必要のないように、慎重に考えたいものだ。


5月30日の後注: その後、ほかの方のブログ等で取り上げて頂いたものをいくつか発見したので、●印で追加しておく。こうして見ると、人によって評価が違うのが良く判り、なかなか面白い。

<1 以前作った未公開の在庫品を流用したもの>
001:声 既成事実作ってしまえば勝ちだよと誰かの嘯く(うそぶく)声が聞こえる
002:色 旅に出れば我れは少年 地図片手に景色ばかりをキョロキョロ見ている
○004:淡 日没の延び来たるらし正月の赤坂見附の淡き夕映え
006:時 数十年の異なる時を持ち来たる友ら集いて酒飲む今宵
◎008:鞄 聞き馴れし目覚しの音聞こえ来る小さな旅の鞄の中で
◎009:眠 物なき日タバコ代わりのイタドリを吸いいし父もここに眠れる
◎010:線路 列車起こす風に煽られ線路脇のすすきの穂群れ激しく揺れる
011:都 久々に出でし都心の夜なれば雨降る道をゆっくり歩む
014:主義 戦中の平和主義者の苛立ちに比すれば軽きものとは思えど
●015:友 友ら皆発ちしロビーの静まりて少し残りしコーヒーを飲む
016:たそがれ バスツァーの帰路たそがれて山を背に秩父の町は淡く灯が点く
○020:楽 珍しく妻寝し夜を帰り来れば話は明日の楽しみとせむ
025:泳 蝉の声庭より聞こゆ幼き日泳ぎ疲れし後の如くに
◎028:母 いったんは母に供えし酒少し呑みてそろそろ眠らんとする
030:橋 ふるさとの島に渡れる橋著く真闇の中に光りておれり
◎033:魚 このあたり山椒魚の棲拠(すみか)らし「はんざき橋」をバスは過ぎ行く
○034:背中 ありがとうと声掛けバスを降りる子らの小さき背中に秋の雨降る
035:禁 禁煙を志してはまた破る日々の続きて春立たむとす
037:汗 身動きもならぬ混雑抜けたればまずはホームで汗を拭えり
038:横浜 久々の横浜駅は華やぎてサンタの向こうに繭玉並ぶ
●039:紫 晴れて暑き六月の朝道に咲く紫陽花の花造り物めく
041:迷 迷彩服着て戦士らは出掛けたり戦う積りじゃないというのに
○042:官僚 自負持てる官僚なりし若き日は我れも自ずと傲慢なりしか
043:馬 デパートの前のベンチに煙草銜え馬は馬主の出を待ちており
044:香 パソコンの壁紙昨夜変えたれば南の島の風の香りす
●050:変 夏掛けを毛布に変えた涼しさに小さくなって妻が寝ている
053:髪 盆入りの墓に詣でる昼下り妻の白髪の少し増えたる
054:靴下 身を屈め靴下直す若き子に視線が走る春近き午後
●055:ラーメン ラーメンのどんぶりみたいと妻言いぬ秋深まりし上弦の月
○056:松 枯れ松葉打ち敷く道を登り行けば皆鋭角の模様連なる
057:制服 制服の女子高生ら連れ立ちてかしましく行く午後の盛り場
◎060:影 花びらを浮かべ流れる瀬戸川に白き土蔵の影揺れている
◎063:鬼 孫が来て見入るテレビに付き合えば百鬼夜行のこれぞポケモン
065:城 高遠の城址を出でて伊那谷を行けば左右は桜街道
066:消 古き女(ひと)の消息問えば「私にもマドンナだった」と答えが返る
067:スーツ 灯を受けてほのかに白き桜ありて黒きスーツの女佇ちていぬ
068:四 午後四時の日差しは淡し年の瀬の冷たき風の吹く散歩道
●069:花束 この角で死したる人のありたるか花束夜の風に吹かれる
070:曲 冬となれば去年と同じ曲鳴らし灯油小売のローリーが来る
071:次元 所詮我が私的次元の怒りにて酔いて電柱殴るしかなし
073:額 坪百万猫の額の庭なりて妻丹精の菊の花咲く
075:続 延々とスピーチ続けば隅の椅子に我れは坐りてビール呑みいぬ
078:携帯 メール打てばすぐ返事来て再信す携帯ギャルらもかくてぞありなむ
○080:書 年末に逝きたる友の賀状には今年もよろしくと書かれてありぬ
084:林 つややかに照葉樹林は光持ち本州西部の冬は明るし
088:食 搭乗の刻を待ちつつ酒呑みて湿り気多き天麩羅食いぬ
089:巻 渦巻きて潮の流れの速ければ小さき漁船の喘ぎつつ進む
091:暖 布団叩く音かしこより聞こえ来て歳末午後の日の暖かし
092:届 隣より届きし瓜を齧りつつ幼き夏の日を思いおり
094:進 高齢化過疎化の進む町なれど祭に集う人の華やぎ
097:静 小春日の波うらうらと寄せて来て三崎港の午後の静まり
099:動 膝少し傷めておれば五分ほど跛行せし後やおら始動す

<2 題詠マラソン用の新作だが、私自身の過去の体験や実感に基づくもの>
005:サラダ とり呉れしサラダ残せば妻が睨むリゾートホテルの朝食ビュッフェ
◎012:メガホン メガホンの指示に合わせて叫びたるデモも遺物となりて久しき
013:焦 今朝もまた分厚き新聞開きおり安堵と焦り綯い交ぜにして
○017:陸 風止むを待ちてようやく離陸せし離島空港は岬のはずれ
●018:教室 馴染みたる新教室も壊されて母校はすべて過去となりたり
×019:アラビア 「アラビアのロレンス」テレビ欄にあればいずれは見むとビデオに録りぬ
×021:うたた寝 寝不足と老いの重なる日々なれどなぜかうたた寝する気にならず
×023:うさぎ 老いし今も幼き頃も月面の翳り我れにはうさぎに見えず
024:チョコレート 年甲斐もなくチョコレート齧りつつテレビ見ていて妻に叱らる
026:蜘蛛 蜘蛛捕らえ殺し合わせしことのあり幼き日々は残酷なりき
◎027:液体 少しばかり液体燃料補給せむと議論半ばの酒注ぎており
●040:おとうと 「おとうと」と書くには彼も老いたれば「弟」としか書くほかはなし
046:泥 汗拭けば泥の付きたる顔ばかり田の草取りの夏暑かりき
×047:大和 三和大和神戸埼玉みな消えてどの銀行か記憶怪しき
◎048:袖 袖ふれて碁石いくつかずれたれば二人掛かりで位置直しおり
○052:螺旋 アンモナイトの螺旋模したる階段を二階に上がる地質資料館
058:剣 真剣に友の語るをはぐらかしかかわりのなきことを言いおり
○059:十字 十字軍はたまた正義派保安官ためらいのなき人に脅えぬ
061:じゃがいも じゃがいもにバターを付けて食いたるをふと思い出す屈斜路湖
062:風邪 気の向かぬ会に不参の電話せり風邪引きたるを口実にして
×072:インク ボールペンばかりに頼る日々なればインク探すに手間取りており
074:麻酔 内視鏡軽き麻酔と聞きいしにいつしか我れは眠りたるたし
●076:リズム ヘッドホン着けた娘が微妙なる腰の動きでリズム取りおり
×077:櫛 抜け毛付く櫛を拭いつ我が髪のいささか薄くなりしを思う
◎079:ぬいぐるみ 孫が来て忘れて行きしぬいぐるみ抱けば微かに土の香りす
081:洗濯 かじかむ手で洗濯をせし記憶ある下宿の跡を通り過ぎたり
085:胸騒ぎ 胸騒ぎして取り上げし受話器より株セールスの声の響けり
×086:占 それぞれに善意あるとも民衆は占領軍との目で見ておらむ
087:計画 ものごとは計画通りには行かぬものとしたり顔して人に告げおり
090:薔薇 雨やみて緑深まる庭の隅に薔薇の水滴西日を受ける
○093:ナイフ 近頃はナイフ使えぬ子ばかりと聞けば懐かし彼(か)の肥後守(ひごのかみ)
●095:翼 輪を描き鳶は真昼の空にありて翼のほかの形は見せず
●096:留守 妻は留守我れはトイレに坐しおれば肝驚かす電話の響き
◎098:未来 未来(みき)という女の子あり未来(みく)という男の子あり未来やいかに
100:マラソン この中に混じれば茂吉も白秋も異分子ならむ題詠マラソン

<3 題詠マラソン用の新作で、私自身の体験や実感と必ずしも直接の関係はないもの。いわばデッチアゲ・・・上記2との境界は曖昧なものもある>
○003:つぼみ まだつぼみと思いいし娘(こ)がとれたてのつぼみを抱いて挨拶に来ぬ
007:発見 コロンブスの「発見」前より住みていしインディアンらの「母国」やいずこ
◎022:弓 弓抱え午後の電車に乗りて来し女子高生の眉の凛々しき
×029:ならずもの 「ならずもの」との歌なると思いいしその題名は「ろくでなし」にて
×031:盗 横に座す人の新聞盗み見て降り損ねたる乗換えの駅
×032:乾電池 ラジオ通し新しき歌教え呉れて力尽きしかこの乾電池
036:探偵 乱歩正史おどろおどろしき展開は「探偵小説」の名にふさわしき
×045:パズル 職辞さばジグゾーパズルやりたしと思いいしほどゆとりも持てず
049:ワイン 差し入れのワインあるとて碁を打つ手休めて皆と昔語りす
○051:泣きぼくろ 泣きぼくろなのよと話す楽しげな声が響けり混みし車中に
×064:科学 発展は科学のお蔭されど今危機募れるも科学のゆえか
082:罠 心動く電話にあれど勘繰ればこれも何かの罠かも知れず
×083:キャベツ 耳にするキャベツ頭という言葉意味知らぬまま過ごしておりぬ