題詠百首選歌集・その23

 私が勝手に作ったルールによれば、まだ在庫が少し不足なのだが、しばらく選歌がお休みになってしまったので再開(?)することにしたい。


選歌集・その23


003:手紙(207〜231)
 (嶋田電気)メールでもよかったけれど手紙なら届く気がした君までの距離
 (星川郁乃)ながいながい手紙をもらうほんとうのことはP.S.4文字だけの
006:自転車(193〜216)
 (黄菜子)ひともとのミモザの黄乗せ自転車は黒板塀の角曲がりゆく
014:刻(145〜169)
  (内田誠) 刻んだか刻まれたのかあきらめの悪いぼくらが過去型になる
(黄菜子)秋の夜に彫刻室座はあらはれて天にひらかる蒼きアトリエ
(和良珠子)知ることの誰もない子の名を白い紙に書いては刻んで流す
030:政治(92〜116) 
(凛)食卓に並んだ料理冷えきって部屋には政治ニュースが流れる
(小早川忠義)出勤の時間となりて消すテレビ政治家の顔吸ひ込みゆけり
038:灯(61〜86)
(斉藤そよ)かくれがに灯るさいごの鬼灯の種まで抜いてしまわせる春
佐藤紀子)寂しさの吹き溜まりなり日暮れても灯の点らない窓のいくつか
(ワンコ山田)窓ごとに夕日のゆくえ案じつつ灯ともしごろは華やいでゆく
(みあ) ゆうぐれの土手にほのかな黄を灯しタンポポじっと待つだけの花
飛鳥川いるか) 春灯のほろとこぼるる先斗町眉なきをとこが猫をかぞふる
 (寺田 ゆたか) ・終列車出れば駅舎灯は消えて ごうと風入る さいはての駅
039:乙女(64〜88)
(濱屋桔梗) ヴェローナの乙女の恋の結末を悼むともなく揺れる白藤
040:道(61〜85) 
佐藤紀子曼珠沙華咲く野の道を辿りゆく亡き父母(ちちはは)も姉もゐさうで
(ワンコ山田)寄り道の三叉路の先たんぽぽの綿毛は噂ばなしが好きで
(佐田やよい) のびかけのゴムでゆわえた髪と恋パチンとなった舗道の隅で
(小早川忠義)道端に寝転ぶ男おもむろに漫画取り出し笑ひはじめぬ
041:こだま(55〜79)
 (濱屋桔梗) 崩れゆく私がこだまするように不安に響く夜の海鳴り
(ワンコ山田)君の声熱持つ耳にこだまする伝えられない伝言ゲーム
(紫峯)境内に遍路の経のこだませり 海を見下ろす山のいただき...
(小軌みつき)めくらましそれからちょこっとねこだましめくらめっぽうあなたが好きだ
(クロエ) 夕刻の時報は壁にこだまして不協和音で明日を予告す
(小早川忠義)こだまのみ停まる駅なる長々しきホーム端の空き缶ひとつ
(寺田 ゆたか) ・極寒の狭きフィヨルド行く船の短き汽笛峡(かい)にこだます
053:ブログ(27〜51)
(暮夜 宴)ブログからブログに飛んで夜を過ごす羽化も脱皮もままならぬ蝶
(中村成志)日曜はブログ定休日と決めて浜を歩けばひかり目に沁む
(水都 歩)心ないコメント消してブログ閉ず冷めたコーヒーただ苦いだけ
(原田 町)わがブログ開けば別の我がいてどうにもならぬ歌を書きこむ
(野良ゆうき)さみしげなブログ日記にさみしさをつなげるようなトラックバック
(夜さり) 侮蔑の<ぶ>不器用の<ぶ>と書き並べなんぞ無粋なブログの響き
055:頬(27〜51)
(animoy2)ひんやりとする右の頬押し当てて同じ目線で見ていた夕陽
(秋野道子) 眼に触れる母の頬には幾筋も涙があった夏はあれきり