題詠百首選歌集・その26

  しばらく間が空いてしまったが、在庫が少し貯まってきたので、その26をお届けしたい。

        選歌集・その26

015:秘密(153〜178)
  (ふふふふふふふ)母にだけうちあけてみたき秘密あり 邪恋不倫と便箋に書く
  (黄菜子)ぬれやすき頬ふれさせてこの胸の秘密もらさず朝霧の立つ
  (日和小春)身体中秘密を着てた左手の薬指から秘密を外す
020:信号(144〜169)
  (黄菜子) うかうかと信号渡りそこねしは吾が生くるうちに幾多ありしも
  (あんぐ) 一人でも赤信号を渡るのは白いウサギが振り向いたから
026:垂(120〜144)
  (萱野芙蓉) 幾たびも絵巻のなかで死を生くる赤地錦の直垂の武者
  (村上きわみ)高みにて何を惜しむや 飛びながらわずかに垂れている鶴の脚
  (今泉洋子)垂幕に合併祝ふふるさとは何も変らず山笑ふなり
  (村本希理子)春の日のゆるさに編んだ三つ編みを垂らせば香る立麝香草
  (あんぐ)どうしても君に会えない春の日はダリの時計の如く垂れゆく
027:嘘(115〜139)
  (佐原みつる) いつもより半音高くなっていてわかってしまうやわらかな嘘
  (みち。) 嘘ばかりついていたからあたしたち世界でいちばんしあわせだった
  (今泉洋子)いままでにつきし嘘みな許してと沙羅双樹の花仰ぎ見る
028:おたく(108〜132)
  (瑞紀)ニッポンのアニメ好きとふ少年の<You>と話すを<おたく>と訳す
  (今泉洋子) おたくさの襤褸(ぼろ)半球を鮮らかな瑠璃に塗り変へ驟雨過ぎたり
029:草(107〜131)
  (佐原みつる) 抽斗の奥に重ねる便箋の若草色に責められている
  (我妻俊樹)道草のつづきを思い出すように遠くでひとつになっている川
  (瑞紀)浄水場前行きバスは草色のライン流せり初夏の通りに
  (智理北杜) 春耕の堆肥購いし牧場にて牛が草食む陽光の下...
034:シャンプー(83〜109)
  (振戸りく) シャンプーのボトルに小さな隆起などつけて誰かに優しくしてる
  (里坂季夜)シャンプーを詰め替えてゆく1,2分 分になおした余生を量る
  (桑原憂太郎) 農作業手伝ひし朝子どもらはシヤンプウ香らせ登校をせり
035:株(83〜107)
  (末松さくや)切り株になった私があたらしい春の芽をだすようなあいさつ
045:コピー(55〜81)
  (素人屋)我先に喋りたいだけ喋りだす。コピー食品並ぶ食卓
  (佐藤紀子)ママさんの後を追ひかけチョコチョコと縮小コピーのやうな幼な児
046:凍(51〜75)
 (五十嵐きよみ)凍りつきまた溶かされてゆくこころ裏切ることをそそのかされて
  (みあ)凍み豆腐ゆっくりあまく煮ふくめて冬のひなたのふるさとを知る
  (寺田 ゆたか) ・風すさび身も凍るかの北の海の迫門(せと)行く船の水尾(みお)は鋭き
047:辞書(51〜77)
  (ざぼん) 図書館の辞書をめくれば欄外に不思議な空へと続く落書き
  (小軌みつき) いつからか夜ごと新芽が生えてきて辞書に根ざしてゆくゆびのさき
048アイドル(53〜79)
  (クロエ) くちびるもかみのけもゆびも誘ってる、アイドル雑誌が読み捨てられる 
  (みあ) 引き潮のようにひっそりアイドルは赤い靴だけのこして消える
049:戦争(52〜76)
(ざぼん)公園に戦争ごっこの声あふれやっぱり花を摘もうと思う
  (寺田 ゆたか) ・「戦争を知らずに・・」という歌さへもキミらは知らず 昭和遥かに
(小早川忠義)戦争を黙して語る手に重く融け残りたるガラスのうさぎ
佐藤紀子) 戦争の終りたる日の蝉の声 庭に干されし梅干の赤
063:オペラ(28〜52)
(暮夜 宴) 言い訳を並べ立ててる週末のあなたみたいね三文オペラ
(青野ことり) 広すぎる舞台切り取りそこだけをオペラグラスに閉じ篭めている
(花夢) 真実がうまく縁取れない五月オペラグラスで月を見上げる