題詠百首選歌集・その37

 終りの方の題も、やっと2巡目が終了した。引き続き、選歌集・その37


007:揺(227〜252)
(如月綾) もう誰も遊びにこない公園で思い出なぞり揺れるブランコ
(瀧口康嗣)変声期 めしべを揺らしつつ暮れる春のすべてに雨を見ていた
(白辺いづみ) そう吾ら鳥にはならぬもののため蒼過ぎる夏至の森は揺れおり
012:噛(206〜231)
(落合朱美)青林檎君が噛ったその痕跡(あと)の恥じらう素肌(はだ)の白く輝く
042:豆(107〜132)
(るくれ)五目豆を煮る夕方が好きなんだそんな話もはじめてするね
(みち。)笑い声ひびかせるたびぽろぽろとこぼれる豆のような虚しさ
碓井和綴)豆がらを煎る隙もなく跡継ぎを姉に宣言されて初盆
043:曲線(111〜135)
 (里坂季夜) 汗をかくデュラレックスの曲線にそってかなしい記憶を逃がす
(なまねこ) あいまいな曲線描き立ちのぼる紫煙で旅の行方うらなう
(星桔梗) 数式に不似合いなほど滑らかな双曲線に答えを探す
(萱野芙蓉) 乞ふかたち捧げるかたち思ひつつわざと曲線ばかりを描く
051:しずく(78〜103)
(るくれ)少しだけしずくを零して帰ろうか南の風があったかいです
飛鳥川いるか)しろき猫しづくとなりてしたたりぬ月しづみゆく夜の塀より
碓井和綴) ウィスキーグラスのしずく落ちるのを眺めてるまま責められている
052:舞(76〜101)
飛鳥川いるか) 春愁の日暮れとなりぬわが上を羽毛恐竜舞ふ心地して
(中村うさこ) わが代で閉ざす会社の看板を仕舞ふ夫(つま)の背いたく小さし
063:オペラ(53〜78)
(David Lam) カルメンのオペラの火照りそのまゝに ドン・ホセがゆく君が部屋へと
(みなとけいじ)オペラグラスの君に世界は軽からむ破船の群れを指さきに統べ
(紫峯)この恋を知り初めしころ手のひらのオペラグラスの小さき重み...
095:誤(25〜50) 
(新井蜜)誤って乗ってしまったこの列車あなたの町へ行くはずがない
(水都 歩)私にも下さい心の正誤表あなたの言葉計りかねてる
096:器(26〜51)
(春畑 茜)曇り日のけやき影さす楽器店フェンダーギブソン、並べるが見ゆ
(寺田ゆたか) ・手にとりて白磁の器いとしめば金糸雀(かなりあ)色の酒が囀る
(水都 歩) 午後の日を好みの器持ち出して自分のために点てるコーヒー
098:テレビ(25〜49)
(髭彦)白黒のテレビ観たさに蕎麦食ひし時代のあるを子らは知らずも
(暮夜 宴) テレビだけ陽気にはしゃぐ夕餉には鯖の味噌煮ときんぴらごぼう
(濱屋桔梗)100人のブッシュが並び威嚇するテレビ売り場をそそくさと去る
(寺田ゆたか) ・いまもなほ故郷の川変らじとゆくりなく見しテレビで知りぬ
(小早川忠義) テレビよりベル鳴りやまず背後にて電話取らむと母小走りす