題詠百首選歌集・その39

  「残暑」というよりは、「夏 真っ盛り」のような酷暑が続く。もっとも、今日は一息ついたところだが、また明日からは暑くなるようだ。このところ何となく疲労感がある。夏負けなのか、それとも年齢とともに常に疲労感が付いて回るようになるのか。年齢のせいだとは思いたくないところだが・・・。


       選歌集・その39    


005:しあわせ(242〜266)
(高岡シュウ)その表情(かお)は僕限定と思ってた頃が一番しあわせだった
(桑原憂太郎)高機能自閉のA子指文字で我にしあわせのサインを送る
(多田零)ゆふやみの壁の守宮にただいまと言ふしあはせはこのごろあらず
(星果) しあわせは時々歩いてやってくる 日を浴びた猫のてのひらのにほひ
(うめさん) パスポートに十年前のわれがゐる今のしあはせ知ることもなく
021:競(154〜179)
(里木ゆたか)夏の陽に届けと競う鈴掛を置きて我のみ秋を知りたり
032:ニュース(103〜127)
(月原真幸)とびきりの青空色の雨傘にニュースカイって名前をつける
(+イチゴ+)しあわせなニュースを抱いた帰り道 あなたの好きなカレー作ろう
(うめさん)チャンネルを替へてはスポーツニュース見る阪神連勝したる夜には
(一夜)テレビ点け居眠る彼の耳元の ヘッドフォンからニュース流れる
(y*) 家という型にはまってみたくなる朝のニュースを見て帰る時
033:太陽(104〜128)
(里坂季夜)あのころはプール帰りの肩に降る太陽も雨も温かだった
(桑原憂太郎)イソツプの寓話持ち出す研修の我は生徒の太陽ならず
(描町フ三ヲ)気晴らしに太陽系の大きさと比べてみても告白は無理
(睡蓮。)今日もまたいつもと同じ日常が回る 私の太陽はどこ
048:毛糸(77〜101)
(黄菜子)なにをしてもさびしい日なり ささくれの指に毛糸の赤を巻いても
(花夢)もう、終わりかけているふゆ 編みかけの毛糸をほどくときはかんたん
(素人屋) ほどいてはまた編み直す毛糸玉 同じところでいつも絡まる
(澁谷 波未子)来年のマフラー用に買い求む 毛糸の玉の紅さ哀しき...
(A.I) あやとりをするためほどくセーターの青の毛糸は海へつながる
(ME1)いとまきのうたと一緒に巻き直す思い出毛糸 あの冬小冬
(寺田 ゆたか)みしみしと軋むがごとく星凍り老女黙して毛糸編みゐる
(佐原みつる)過ぎ去ったことのようにも思われて解いた毛糸をまた巻き直す
(萱野芙蓉)フィルム・ノワール 夫殺しの若妻の毛糸の帽子に雪ふりきたる
(里坂季夜)真夏日に余り毛糸を取り出して編むキャスケット混沌(カオス)1号
059:ひらがな(52〜77)
(よさ)ひらがなで君の名前を書いていた結末よめる映画のように
(ぱぴこ) 引き出しの奥には母のひらがなで書かれた名札つきのクレヨン
(白辺いづみ) 朝風呂の窓うつくしく頭から水にほどけてひらがなになる
(百田きりん)ほめことばだったと思う ひらがなの る には一生似ているつもり
(愛観)投げ合った言葉のカケラ痛むから ひらがなで言う今日のサヨナラ
(市川周)ひらがなの名前の上にもふりがなの欄があるのでカタカナで書く
060:キス(52〜76)
(葉子) ためらいの抱擁焦れてキスしてとつい口をつき箍はずれゆく
(ぱぴこ)寝たふりをしているだけとわかるならおでこにひとつキスをください
(村本希理子)わが窓を走る水滴 雨の日はYouTubeにてクセナキス聴く
(愛観)キスしない方が不自然すぎるほど近づきすぎて踏み出せぬ距離
075:鳥(26〜50)
(香山凛志) 川沿いを行けばひとりとひとりなり鳥の名前を教えあっても
(原田 町)鳥葬か風葬もよしと思ふ日のチヨツトコイとぞ小綬鶏の鳴く
(五十嵐きよみ)風の名の事典があれば窓ぎわに鳥の事典とならべて置こう
(よさ) 逃げ出した鳥の名前を呼ぶ子供ほらほら闇が近くにいます
(うめさん)伸びやかにひつひふううと鳥の鳴くシンガポールの朝のプールに
076:まぶた(26〜50)
(野良ゆうき) あたらしい朝を迎えるためだけに閉じたまぶたに悪戯をする夜
(すずめ)まさり来る老いの翳りも知らぬげにまぶたに浮ぶ君の微笑
(aruka)うつむいた少女のまぶたに消えかかる雪の結晶が死にふれる夜
(五十嵐きよみ)幸せが遠くで待っている予感ひかりのキスをまぶたに受ける
(村本希理子)子供らのまぶた次々めくり終へ校医は深きみどりの茶を飲む
(富田林薫) 夕立のアスファルトからおしよせる夏の匂いにまぶたをとじる
(惠無)まぶた閉じ見える何かを探してる答えはないと言い切れなくて
077:写真(26〜50)
(ドール)八月も半ばを過ぎて図書館で潮の香のする写真を探す
(振戸りく)右隅に通りがかりの君がいた修学旅行の写真を飾る