題詠100首選歌集(その20)

         選歌集・その20



013:優(136〜161)
(砺波 湊)夏帽子かぶせて去っていく指が宙に描いた優しいカーブ
(鳴井有葉) やましさが優しさになる来客用カップに注ぐ高価な紅茶
026:基(80〜104) 
(村木美月) うっとりと基礎化粧品ならべおり魔女の手つきで媚薬をつくる
ひぐらしひなつ)美(は)しき名の城も滅びて基教徒の処刑ののちを降り紡ぐ雨
(萩 はるか)いまさらの「料理の基本」厚焼きのたまごが母の味にならない
(橘 みちよ) 基地もたぬデラシネ暮らしの気安さと虚ろを恋ふもまうもどれない
027:消毒(81〜105)
(しろうずいずみ)どこまでも夕陽がきれい あまあがり消毒された孤独のなかで
ひぐらしひなつ)消毒薬嗅ぎあうように口づける鬱金香の蕊やわき午後
(幸くみこ)消毒の匂い漂う裏道に成人映画のホールがあった
031:忍(52〜76)
(原田 町)かの夏の忍びがたかることどもを知らない人ら増えゆく平和
(ほたる)忍び足で二時のキッチン覗くとき水のつぶやき鼓膜に触れる
(遥遥)みちのくの忍びの道は一人旅奥の細道かきわけ通る
(新井蜜)風邪気味のあなたの寝息たしかめて忍び足にて電話に戻る
(天昵 聰)セリーヌのラテンの悲哀聴こえたら不忍通りシャンゼリゼになる
032:ルージュ(52〜76)
(西巻真) 恥ずかしい名前で風が呼べるなら何度でもマリーンルージュと言おう
(七十路淑美)情(こころ)ふと揺らぎし折りに買いおきし桃色ルージュを愛しと塗らむ
(新井蜜)鍵盤にルージュをそっと引いてみる細い指先触れる辺りに
(詩月めぐ) わたしよりあのひとの方が似合ってたピンクのルージュゆるせなかった
(夜) 君もいつかあんなルージュをひくんだろうか僕をこどもに残したままで
045:楽譜(26〜50)
(はこべ)能管の楽譜を唱歌(ショウガ)ということを教えてくれし人今は亡く
(月子)楽譜見て音を奏でる横顔に縛られ我は君を見ており
(ME1) 歌いだす楽譜がそこにあるように 冴える月夜は 恋の始まり
(遥遥)かげりなき光の中に闇がありモーツァルトは楽譜を燃やす
046:設(26〜50)
(ほきいぬ) いつもより ほんの少しだけワイルドに設定してみる 満月の日は
(水都 歩) 施設とふ言葉の響き冷たくて母を託する意定まらず
(七十路淑美)波の上に設(もう)けし舞台にいるような危なげな恋化石となりぬ
058:帽(1〜26)
(行方祐美)ひらひらと帽子は白く飛んでゆく言葉つくれぬはらいせとして
(詠時)通学路黄色い帽子があちこちとブラウン運動している四月
(こはく) これ以上がんばらなくていいからと僧帽筋を交互にほぐす
059:ごはん(1〜25)
野州) ゆふぐれてごはんですよとよぶ声が路地うらまでも聞えてきたり
(梅田啓子)一合の米研ぐ指のたよりなさ硬めのごはんに柚味噌のせる
(Asuka)日変わりに ごはんかきこむ姿さえ好きになりまた嫌いになりて
060:郎(1〜25)
(みずき)太郎山怪しく翳るおぼろ夜は男女(めを)奔放に明けざるといふ
(梅田啓子)「くいだおれ太郎」の引退惜しみつつ道頓堀にたこ焼きを食ぶ