題詠100首選歌集(その21)

 若葉が爽やかな季節となり、ゴールデンウィークも本番となった。もっとも職を辞した身としては、いつもと変わらぬ毎日であり、ゴールデンウィークの解放感を味わうことができないのは、少々残念なことではある。去年も同じようなことを書いたような気がするが、所詮は贅沢な不満と言うべきか。


     選歌集・その21

012:ダイヤ(150〜174)
(海子) 鉄道のダイヤにいつも数分を遅れて村の一両電車
(和良珠子) かけがえのないもの天より授かりていつかダイヤの似合わぬ指に
021:サッカー(111〜135)
(萩 はるか)挙式の日照れ笑いするおとうとにサッカーピッチの風が重なる
(水風抱月)小さくも守るに広きサッカーのゴールのようなわたくしの傷
(佐原みつる) わだかまりが消えたわけではないけれどサッカーボールに空気を入れる
(川鉄ネオン)とりたててやることもなし五月晴れ庭に潰れたサッカーボール
047:ひまわり(26〜50)
(野坂 りう)雨の日はひまわりと猫も夢を見る 丘の上に咲くダンデライオン
(新井蜜)教室のかびんに挿したひまわりが枯れてしまっていた登校日
(月子)ひまわりのような笑顔で会いたいからレモンイエローのブラウスを選ぶ
(流水) 底抜けに明るき光受けたればひまわり落とす影は漆黒
(七十路淑美) ひまわりの迷路で出会いし顔(かんばせ)が夏来るごとにふと甦る
048:凧(27〜51)
(松下知永)焼豚の白き凧糸にたれの染む決まって五月に会いたがる父
(野坂 りう)凧糸がほどけないのです見上げれば飛行機雲の始めと終わり
(新井蜜) 感情の重みに耐えて凧糸の描く弧のごとたわむ繋がり
(酒井景二郎)おめでたい文字もかすれた凧(いかのぼり)かかる床の間見乍ら飮むか
(ME1)空駆けるどころか掛かる凧までも失くし都会は皓月濁す
(流水)煽られて糸の切れたる凧ひとつ昭和の風を探して消える
049:礼(26〜50)
(新井蜜) 着ることのまれなタンスの礼服がきつくなりまたややゆるくなる
(はこべ)礼状に添えし写真は芝の中もじずりの花一本の庭
(水都 歩) 泣き腫れた目元隠して若妻はただ黙礼を繰り返すのみ
(流水)頭(こうべ)垂れ飼われしことの礼をして牛は荷台に揺られて売らる
050:確率(27〜52)
(はこべ) 花びらがこの手にとまる確率をきみに預けて深呼吸せり
(月子)君はもうこの街にはいないのに会える確率考えてる朝
061:@(1〜26)
(行方祐美) どの人も@で繋ぎいるメールアドレスという不思議な番地
野州)近況は@(アットマーク)ののちに書く作法のやうに思ふゆふぐれ
(みずき)@より@へ恋の交差して点打つ指の冷え冷えと秋
(那美子) [@](アットマーク)押しても出ないPCで  メールを送る春の街角
(髭彦) いつからか<@(アットマーク)>や<.(ドット)>やらナニゲに語る六十路のわれも
(梅田啓子)籠る日に@(アットマーク)を書いてみる今にも種子が発芽しさうに
(磯野カヅオ)煩はしさうに書く字のいとほしき@を知らぬ便りよ
062:浅(1〜26)
野州)悲しみはたとへば浅蜊が砂を吐くやうにほつほつ語られてゐき
(夏実麦太朗)缶詰を浅いお皿に盛ってみた一人っきりの遅い昼飯
(梅田啓子) きれぎれの睡りあつめて一夜とせむ浅き呼吸に闇に臥しゐる
063:スリッパ(1〜26)
野州) ゆふぐれの癲狂院のスリッパの擦り切れてゐて悲しかりけり
(詠時) 足かせの如くスリッパ居並びて待合室には患者あふれる
064:可憐(1〜25)
(船坂圭之介)可憐とはほど遠きひとされどその優雅なる歌忘れかね居つ
(梅田啓子)くれなゐの桜の蕊の残りをり衣ぬぎたる可憐さもちて