題詠100首選歌集(その14)

          選歌集・その14



005:調(163〜187)
(草蜉蝣) くちぶえの調子はずれて夕闇へ 最後のくちびる乾いてた冬
(花夢) オムレツは調子っぱずれのはなうたをすこうし混ぜて作るのがコツ
007:ランチ(135〜160)
(はしぼそがらす) 春空につばめの姿見つけたらランチに行こう病院抜けて
石畑由紀子) 同僚の恋のはなしを不可思議な水越しに聞くゆらめくランチ
(Re:)きみの腕と布団の中で朝寝坊 ランチタイムは遅くてもいい
(美木)誰それのネクタイの色がどうだとかランチタイムの欠席裁判
008:飾(128〜152)
(みずたまり)クリスマスツリーに真綿を飾るよに十七歳はブランコに乗る
(草蜉蝣)飾らないことが大事と思う朝 鼻からぬけるミントの香り
(星川郁乃)装飾はときに痛みをともなって纏足・ピアス・華奢な革靴
(花夢)やみくもに祈るかわりに本棚へ水玉模様のコップを飾る
(たかし) 爪飾る女が愛想笑いする春はどこかでビルが壊れる
014:煮(77〜101)
(はしぼそがらす) 豆を煮る節くれだった母の手をふと思い出す梅匂い立つ
(森山あかり)話し終え靄がかかった夕暮れをやり過ごすためシチュー煮てみる
(イマイ)今晩は煮込み料理をしなさいと同じ哀しみ持つ人は言う
015:型(77〜101)
(音波)新型のわたしになって傷跡を上書いてゆく 春なのですし
(秋月あまね)少しだけお茶しませんか耳たぶの歯型は少してれくさいから
(ゆふ) 「母さんの型に嵌めないで!」かつて吐いた同じことばを今言はれてる
(笹本奈緒)来なきゃいい夜中のバスを冬型の気圧配置の隅で待ってる
017:解(56〜80)
(祢莉) xを私にyを君にしたその数式は解かないでいて
(ぷよよん)大好きとやっぱり嫌いが交差する二次関数の解答用紙
(イマイ)わたしより必要なのは解熱剤 水の匂いは部屋に広がる
018:格差(53〜79)
(藻上旅人)人としての格差の前に立ち竦むその意味さえも分からぬままに
(暮夜 宴) 折り鶴はもうすぐ1000羽 格差など知らない指で丁寧に折る
(イマイ) 今頃も吹雪なのかと布団干す格差のような真冬の日差し
019:ノート(51〜75)
(わたつみいさな)見開きのノートの頁に写し取るあなたが逝った春の残り香
(庭鳥)どんな色してるのですかパリの空ノートルダムにかかる日差しは
(都季)「これから」をきちんとこの手で描くため青い表紙のノートを買おう
(藻上旅人) 今になりノートを開く僕がいて君の名前が書かれていない
(イマイ) すみずみに雨の気配は満ちていて祈りのようにノートを選ぶ
020:貧(51〜75)
(わたつみいさな) 夜空にはつめあとがあり貧血の理由がじわりながれだしてる
(西野明日香)情けなく心貧しい夜の部屋 鏡は正しくわたしを映す
(五十嵐きよみ)微苦笑で思い出すこと貧しさを美化してひそかに憧れていた
(暮夜 宴)ささくれのめだつ貧しいその指で奪うのならばどうぞ根こそぎ
(音波)貧しさは知ってるつもり でも今日のプッチンプリンは山盛りにして
(中村成志)桜から葉一まいを貰い受く貧しき影の依る護符として
031:てっぺん(26〜50)
(マトイテイ) 一度でも「てっぺん立ったか」などと言う類の言葉を受けたいものだ
(かりやす)ぜいたくを自分にゆるす給料日“てつぺんトマト”をあがなひてみる
(ジテンふみお) てっぺんでやる気失くした毛髪に不朽の愛を誓うもみあげ