題詠100首選歌集(その18)

        選歌集・その18


010:街(133〜159)
(新野みどり) 街角の交差点など駆け抜けて君の居場所に向かってみたい
(松原なぎ)あの街に虹がさすのを待っているわたしひたすらタンバリンうつ
野州) 冬の空映して玻璃戸静まれり人より猫の多くゐる街
(宵月冴音)この街でぼくと暮らそう暮れかけの部屋でフランスパン切りながら
015:型(102〜126)
(村木美月) たましいのきっとどこかがおぼえてるO型の血が流れうつ音
(振戸りく)砂浜を固めてとった右足の鋳型に海がそそがれている
(森山あかり) 始まった途端に終わり見えるよな型にはまった日を生きる意味
018:格差(80〜105)
(新田瑛) 容れ物の差だとか海苔の有無などを格差と思って食べるもりそば
(藤野唯) 花の匂いする子の背中 教科書の格差の2文字見ないふりした
019:ノート(76〜100)
(花夢)つまらない日本史みたいな揉め事をノートにまとめておしまいにする
(詠時)真新しいノートに書き込む一文字をためらうような二人の沈黙
(ezmi)もう二度と読み返すことの無いノート空っぽの部屋ひえびえと春
024:天ぷら(51〜75)
(風天のぼ) 立ち食いの天ぷらそばのつゆの色 昭和の街へたしかめに行く
(水口涼子)天ぷらの油吸い取るためだけに白い和紙折り竹籠に敷く
(音波)天ぷらのぷらの秘密を教わって君はだんだん母に似てくる
ひぐらしひなつ) 首のない海老を沈めて春昼の天ぷら油さざめきたてる
025:氷(51〜75)
(天野ねい) あの夜に氷が水になり目から零れて以来からっぽの胸
(髭彦)氷張る冬の朝を知らぬまま六十路に春は近づきにけり
(水口涼子) カラカラとグラスの氷鳴らす時会えない人に会える気がする
(音波) 流氷を産み出す 春の街に住むあなたには分からない理由で
(チッピッピ)氷しか残っていないアイスティー 話はずんでまたかき混ぜる
ひぐらしひなつ) 製氷機ごとりと鳴ってしどけなきあなたの指が団扇を探す
035:ロンドン(26〜50)
陸王)吾 試験勉強をする庭先で ロンドン橋の歌唄う母
ひぐらしひなつ) ロンドンのその長閑なる語の響き燻らせたまま沈黙となる
057:縁(1〜25)
(鳥羽省三)縁あって二子を賜はる我らにて今日の昼餉に恵方巻食ふ
jonny)遠縁に天使と悪魔がいるという共通点があるのが僕ら
(みずき)縁側に蘭鉢ずらし静脈の透ける日差しを楽しんでをり
(みつき)姿見でうなじ整え君を待つ 縁日の笛響く夕暮れ
(日向弥佳)昔から同じ願いを繰り返す5円にかけたご縁の重み
(ジテンふみお)熱帯魚みたいな服で来るらしい顔は憶えぬ遠縁のおば
058:魔法(1〜25)
松木秀)目の前に魔法使いがあらわれて眠りの呪文ばっかり使う
(船坂圭之介)マジシャンの為せば魔法のごとくして今一たびの逢ひ望めぬか
(アンタレス) 新薬を貰い効かぬと告げたれば魔法に有らず時間を待てと
うたまろ) 星はもう朝に溶け込む でもぼくは 合図と魔法を探し求める
(みつき) 過ぎし日のように小枝をくるくるり 魔法は吾子の膝に降り落つ 
(日向弥佳) もしここが魔法の国ならお話の続きはきっとハッピーエンド
059:済(1〜25)
jonny) 用済みの夢の中からリサイクルできそうな夢探して春へ
佐藤紀子) 「済んだことは仕方がない」と乙姫の溜め息一つ泡と浮き来る(浦島太郎物語)
(庭鳥) 端にある赤い済印それだけが今日の仕事の証拠物件
(ジテンふみお)搭乗の手続き済ませおばは行く蝶がいっぱい飛んでる服で