題詠100首選歌集・その28

 昨日は、国立博物館で阿修羅像を見て来た。これまで興福寺で何度か見た像なのだが、博物館で見ると意外に小さい。それだけにかえって迫力(?)を感じる。遠い昔に、ありきたりの仏像ではなく、現代人の感覚にも通じるあのような繊細な像を造った仏師の造型力に、あらためて脱帽するとともに、祖先たちの素晴らしさも感じたところだ。短歌にしてみようとも思ったのだが、いまのところ力及ばず歌は生まれていない。



       選歌集・その28


004:ひだまり(229〜253)
(佐原みつる) ひだまりの猫のようだと言われてもよくわからない もう日が暮れる
(ゆうごん)忘れられほこりまみれの窓からもひだまりは静かに降りてくる
(藍澄さねよし) 潮が引くように光は浚われて 洞(うろ)のひだまり誰(た)が為に在る
(原梓)〈ひだまりの民〉なる名持つ玩具あり陽炎に溶けゆくがに揺るる
(kei)ひだまりの三つの木椅子眠そうな午後をしずかに味わっている
012:達(160〜184)
(須藤歩実) 友達にばったり会うってこともなくジュンク堂2階詩歌コーナー
(ゆうごん) 達成のありかも知らずひいやりとした砂のつぶ崩しては積む
(如月綾)いつまでも上達しない不器用な恋愛ばかり今日もしている
(千坂麻緒) せんせいの熱伝達の解説が愛のことばと響いて五月
014:煮(153〜177)
(村本希理子)白桃を煮てゐるやうな頼りなさぬかるむ春の農道ゆけば
(やや)煮詰まらぬように見あげる花水木 soloのできない恋をしている
(たかし)老いてきたと言いながらキンメ煮るヤツの指先鱗が光る
(ゆうごん)不可思議な生き物めいたじゃがいもの足をむしって煮こむしずけさ
(こはく) ひらききるちからとっさにあきらめてひとつひとつを煮てゆく深夜
(しおり)煮え滾る地獄の釜に落とされる覚悟はなくて諦めた恋
018:格差(131〜155)
(ゆうごん) たれこめる格差の雲の下にあり豆つぶほどのさみどりは萌ゆ
(湘南坊主)あるはずの格差に異議を唱えても丸め込まれておとなしくなる
023:シャツ(102〜129)
(流水) Tシャツを着せられたまま捨ててあるテディベアのほつれた綿毛
(太田ハマル)あたふたと風に踊っているシャツが君に似ていてちょっと笑った
(みずたまり)白シャツで革命を語る定年の世界史教師のために来る夏
(nnote)虹色のTシャツ10年分たたむ衣装ケースはしずかな棺
(新野みどり)街路樹が白シャツの肩に影落とす5月の空は見上げれば晴れ
024:天ぷら(101〜127) 
(村木美月) 旅立ちを明日に迎える君のため春を集めて天ぷらにする
(ほたる) 天ぷらの油のはねた手の甲の小さな痕を撫でられている
037:藤(51〜76)
(暮夜 宴) 藤棚のしたに零れたひかりだけあつめてあそぶ春のてのひら
(春待)薫風に触れたき吾は熊蜂の羽音聞こゆる藤花を見る
(花夢)とりとめもない猜疑心 こころには藤紫の星雲を抱く
038: →(52〜76)
(水口涼子)→(めじるし)を探して歩く楽しさよ初夏の緑に少年の声
(都) →の行間語らず直線に説得されてふとくしゃみする
(中村成志)しろくふとく地に描かれた → の先端に立ち海を見つめる
051:言い訳(26〜51)
ウクレレ) 引き返す言い訳ひとつ欲しくって一番星をきみと探した
(ひいらぎ) 言い訳をいくつも用意してたのに何も聞かれぬ心は遠い
083憂鬱(1〜25)
(船坂圭之介)父の座の淋しかりけり雲一つ無き青空のなかの憂鬱
(夏実麦太朗) いざと言うときに備えて憂鬱と薔薇と檸檬は漢字で書ける
(梅田啓子)歌へぬほど憂鬱な日はまるまりてベッドにしづかに横たはりをり
085:クリスマス(1〜25)
(みずき)一人ゐて窓べに灯すクリスマス 君住む街へとほき雪降る
(船坂圭之介) 死はすでに遠き記念碑耐へがたき憤怒クリスマスの夜に湧く
(梅田啓子)澄むこゑの「クリスマス・イヴ」聴こえきて赤いコートの少女がはしる
(穴井苑子クリスマス・ソングにのせて回してる同じ値段のあたりとはずれ