題詠100首選歌集(その29)

選歌集・その29


003:助(238〜262)
(ゆき) 永遠に終わらぬ助走かもしれず跳ぶべきバーは陽炎の外
(原 梓)亡き祖父の火葬が終るまでの間に食みし助六寿司の甘さよ
(nnote) かなしいとくるしい飽和して四月助走の果てにある海の色
006:水玉(212〜236)
(迦里迦)可愛い可愛い鴉は泣いてかあさんの手作りブラウス水玉ばかり
(やすたけまり)虹の先回りをしよう 水玉をころがすくすりガラスにぬって
011:嫉妬(181〜205)
(宵月冴音)ふかぶかと嫉妬の証爪痕の背にしみてくる朝のぬるま湯
(田中ましろ) 劣情と嫉妬の狭間で狂おしく果てたい夜にだけ君を呼ぶ
(nnote) 産み付けたまま忘れ去りある春に嫉妬うすむらさきの翅持つ
(佐原みつる) 嫉妬とも言えない淡い感触を転がす夜の広いテーブル
(やすまる) 晩春の草の香りのかぎろいを嫉妬と名付け育んでいる
(sora) 迷ひなくヒトリを選んだ初夏のあなたの勇気に嫉妬している
031:てっぺん(76〜100)
(五十嵐きよみ) てっぺんに苺がのったケーキめく少女ら笑いさざめくときに
(春待) こんな日はジャングルジムのてっぺんで報われた恋の話を聞こう
(花夢)三日月が夜のてっぺんを切り裂いて言いたいことがあふれてしまう
052:縄(26〜50)
(はこべ) 注連縄の御幣新たにととのいて 能楽堂に新しきとし
054:首(26〜50)
ウクレレ)首筋を撫でゆく風のごと視線あびて昇進辞令受け取る
055:式(26〜50)
(はこべ) 数式が解けたる時の快感を今はゲームに重ねる不思議
(ひいらぎ) 緊張を隠して向かう入社式スーツは上手く着こなせぬまま
056:アドレス(26〜50)
(チッピッピ) 亡き父のアドレス今も消せなくて 携帯の中 生き続けている
(行方祐美)アドレスを持たない母さん風の人あしたもきっとふわんと軽い
(七五三ひな) ケータイのアドレス帳の「1番」を未来の夫のため空けている
086:符(1〜25)
(みずき)あの夏の記憶に佇ちて切符もつ指木枯らしのなかの改札
(みつき)符合する人のない夜はコンビニの棚に並んで売られたくなる
087:気分(1〜25)
jonny)なんとなくオバマ気分の夜だから世界平和を語ってみたい
(鳥羽省三) 白酒でほろ酔い気分になったから雛壇飾りは娘(こ)らに任せた